マヤの古代都市は高濃度の水銀で汚染されていた! 死と再生を象徴する「赤い顔料」が原因か
グアテマラシティの北東280キロに位置する古代マヤの都市ウカナルで、カナダのモントリオール大学で人類学を専攻する博士課程の学生ジャン・トレンブレイが率いる研究チームが都市の中心部と貯水池から採取した土壌サンプルを調べた。その結果、高濃度の水銀で汚染されていたことが学術誌『Journal of Archaeological Science: Reports』で明かされた。アートニュースペーパーが伝えた。 【写真】基準値を超えた水銀濃度が検出された貯水池 研究チームは、ウカナルの周囲の地域から流れ込んだ水を貯める、3つの古代の貯水池の堆積物を調査した。その結果、全ての貯水池で水銀濃度が基準値を超え、重度汚染に分類されるレベルに達していた。貯水池以外では、市の中心部の儀式が行われた区域で最も高い水銀濃度が検出され、住宅区域を含むその他の場所から採取したサンプルでも、儀式の区域よりは低いものの、通常よりも高い濃度だった。 この調査結果について、ジャン・トレンブレイは次のように話した。 「土壌や貯水池から水銀が検出されることは予想されていましたが、ここまで高濃度とは思わず驚きました。そして注目すべきは、汚染区域が都市全体だったことです。これはエリート、非エリート関係なく誰もが水銀の脅威にさらされていたことを意味します」 これは何が原因だったのか。トレンブレイは、マヤ族が硫化水銀からなる鮮やかな赤色の鉱石「辰砂」を使っていたことを挙げた。彼は「辰砂は埋葬儀式に使用され、建物の塗装や、高級陶磁器、彫刻された骨製品、石の装飾品や人形の装飾用着色料として、またそれ自体が儀式の供物として広く用いられていました」と説明する。 マヤ人が赤色にこだわった理由については、血の色が死と再生を象徴していると考えていたようだ。特に辰砂は、他の赤い鉱物顔料とは異なり、鮮やかな紫がかった赤色をしていたので好まれた。 また研究チームは、紀元前800年から西暦1521年までの長い期間水銀汚染が存在していたことをつきとめた。とりわけ都市が最盛期を迎えた9世紀に水銀の濃度が急上昇しており、その理由をトレンブレイは「長距離の貿易が増えたことが原因です」と語る。 水銀がこれほど日常生活に浸透していたため、ウカナルの人々は、水を飲んだり、辰砂を粉砕する際に誤って水銀を摂取したり吸い込んだり、あるいは儀式中に辰砂に触れたりすることで水銀を皮膚から吸収した可能性がある。だが研究者は、現在の技術で遺骨に残る水銀が生前の環境曝露によるものなのか、それとも死後の葬儀の儀式によるものなのかを判断するのは難しいと話す。 研究チームは引き続きウカナルでの調査を続けるという。トレンブレイは、「この特別な研究は、古代マヤの人々が健康に悪影響を及ぼす可能性のある環境で生活していた可能性を浮き彫りにしています。私たちは、この遺跡をさらに調査し、古代の生活環境をさらに詳しく記録するつもりです」と意気込みを語った。
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