「ダークな性格」の3つ分類…サイコパス、ナルシシスト、あと1つは?
「よい性格とは何ですか」「悪い性格とは何ですか」。心理学の教授を務める小塩真司氏は、生徒たちからそんな質問をよく受けるという。果たして、その質問に“答え”はあるのだろうか。近年、心理学の領域で注目されている、ダークで悪い性格を解き明かす「ダーク・トライアド」の研究を軸に筆者が解説する。※本稿は、小塩真司氏『「性格が悪い」とはどういうことか――ダークサイドの心理学』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 人間のポジティブな側面に 心理学の関心が移ってきた 1990年代なかば以降、ポジティブ心理学が注目されるようになりました。心理学の関心の中心が、精神的な病理や人間の弱さなどネガティブな側面から、人間の強さや美徳などポジティブな側面へと移っていく大きな流れが生じたのです。 もちろん、抑うつや不安、薬物乱用、統合失調症など多くの問題から目をそらしたわけではありません。予防という観点から、問題を事前に防ぐさまざまなポジティブな意味をもつ心理的側面を高めていくことに注目が集まり、その効果が確認されてきたのです。 1990年にポジティブ心理学が提唱されてから2021年までに発表された、ポジティブ心理学の文献の特徴を整理した研究があります。 この研究によると、この間に世界96ヵ国・地域の研究者が5000本以上のポジティブ心理学に関連する研究論文を発表しており、2020年前後にはそれ以前よりもさらに多くの論文が発表されるようになっていました。 30年あまりの間に、ポジティブ心理学は現在の心理学の中でひとつの大きな研究領域へと急速に発展してきたのです。
21世紀に入った2002年、マキャベリアニズム、サイコパシー、ナルシシズム(自己愛)という3つの性格特性に注目し、これら共通する要素をもつ3つをダーク・トライアドとまとめて呼ぶことを提唱する論文が公刊されます。 この論文の執筆者の1人が、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のデル・ポールハス教授です。それ以前まで、これら3つの性格特性は個別に研究されていました。 ● 性格が良いか悪いかは 性格の内容では決まらない? 私自身、1990年代の学生時代からナルシシズムについて研究をした経験をもちますが、マキャベリアニズムやサイコパシーについては、それぞれの研究について目にしたことはあるものの、一緒に研究しようという考えは浮かびませんでした。 それぞれの性格特性は、それぞれが独自の研究の歴史をもちます。 ナルシシズムを研究していた当時は、その概念の中で研究をしており、他の概念と一緒に組み合わせて研究をしようとは思わなかったのではないかと、当時を思い出します。 ポールハスが提唱したダーク・トライアドは、それぞれの中で行われていた研究について扉を開け、相互に結びつけるような役割を担うこととなりました。 ポジティブな心理学的側面やよい性格への注目とダークで悪い性格への注目は、まるで合わせ鏡のような存在です。