【陸上】3000m障害・三浦龍司インタビュー「雰囲気をガラリと変えられるような選手になりたい」東京世界陸上のメダル争いに求められるものとは
男子3000m障害日本記録保持者で、今夏のパリ五輪8位入賞の三浦龍司(SUBARU)がインタビューに応じ、今シーズンを振り返った。 パリ五輪8位の三浦龍司が母校・洛南高の練習に参加!後輩たちとともに汗を流す パリでは自己4番目となる8分11秒72をマークして8位入賞。前回の東京(7位)に続く2大会連続入賞はトラック種目の個人初の快挙だった。 「決勝は“サンショー”のおもしろさや醍醐味、難しさなどが凝縮されたレースでした。走りながらもそう感じていたので、楽しかったですし充実していた思いは強かったです。あとで見返していると、『今、行けただろう!』と思うシーンもありますが、見ていても楽しかったです」 オリンピックという舞台、そして三浦龍司という存在によって、この種目への注目度はこれまで以上に高くなった。 「障害を越えていかないといけないので、距離感など意識しないといけないところがたくさんあります。集団の中で走ると体格の違いから、視界が狭くなって(障害が)わからなくなる場面もあるんです。決勝では上位選手が振り落としにかかってくるので、難しさが一層高まります」 「障害はハードルとは違って倒れてくれないので怖さはあります。しかも、見えなかったり、スピードが上がった時に切り換える場面だったりは、かなり神経質になります。そうした中で、残り1000mになった時の駆け引きはおもしろいなと感じます」 どれだけ厳しい競技かを説明する三浦の表情は、まるで少年のようにキラキラと輝く。サンショーの話をするとき、三浦はいつも楽しそうだ。走力、障害の技術、ポジショニング、テクニック、相手とのコンタクト、そして展開の読み……総合力が試され、随所にある「一瞬の判断」がラスト勝負の余力にも影響してくる繊細な競技だ。 五輪2大会だけでなく、昨年のブダペスト世界選手権でも6位入賞を果たした三浦。選ばれた者だけが出場できる世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグ(DL)の常連にもなっているように、その実力は世界トップクラスなのは周知の事実だ。それを物語るエピソードがある。 「パリの予選の前に、同じ組に入ったケニアの選手とインドの選手と話をしました。DLなどで顔見知りなので。どんな展開で行くのか、速いペースがいいね、と3人で相談するような感じでした。話しながら僕もいろいろ予測して、『じゃあ引っ張って』と言われて『オッケー』と答えたのですが、これは(ペースメーカーに)使われるなと思い直して『やっぱり前には行けない』と言って“回避”しました(笑)。きっとイエスマンでいたら使われていましたね」 DLラバトでは、世界王者のエル・バッカリ(モロッコ)から「写真を撮ろう」と肩を組まれたという。「顔ぶれも変わらないので仲良くなりますし、みんなきさくなんです」と笑みを浮かべる。 五輪で履いた「ドラゴンフライ 2」はインパクト抜群だった。「なかなか見ないデザインで特別感がありました。一気にモチベーションも上がりますし、勝負するんだという感じになります」。東京五輪では「ビクトリー」を履いていたが、「大学3年くらいで、その時の状態を考慮してドラゴンフライを試してみました」と言う。「ドラゴンフライ2」はピンの数も6本から4本に変わったが、スパイクの感覚はそのままに、「障害に向けて足を合わせる瞬間」のリスク軽減にもなったという。 激闘のあとは「少しだけオフが取れました」と言う三浦。普段はインドア派で、自宅でのんびり過ごすことが多いそうだが、「プチ旅行でリフレッシュしました」。今後は11月に5000mで記録を目指し、来年1月1日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)でチームの力となるべく、調整していく。学生駅伝は“卒業”したが、「大まかな流れはあまり変化しないと思います」と語る。 来年は東京世界選手権が最大のターゲット。東京世界選手権では「粘り強く走って、集団から抜け出してメダルを狙える走りをしたい」と静かに闘志を燃やす。「現状でもあと5秒は(自己記録を)短縮できると思いますし、そこは最低ライン絶対に行かないといけないところ」。そのためには「5000mや1500mで日本記録(13分08秒40、3分35秒42)を狙える水準を目指していかないといけない」と考えている。11月末の記録会には5000mで出場予定。久しぶりに記録を狙うレースとなりそうだ。 「3000m障害という種目、そしてアジア人ということで過小評価されていた部分もあります。日本人が戦える可能性も低いと思われていたと思います。1人の選手として、走りで会場を沸かせられる、雰囲気をガラリと変えられるようなインパクトのある走りがしたい。この人のレースを見ていると鳥肌が立つ……そんな走りに自然と惹かれると思うんです」 そんな熱い思いを飄々と話す三浦。その走りが多くの人々をどれほどワクワクさせているか気づいているだろうか。
向永拓史/月陸編集部