「『彼ら』がやったことなんだから」…被災から1年・能登の銭湯店主が地域交流で見つめた「復興の重み」
銭湯と町は「運命共同体」
――銭湯の魅力について改めてお伺いしたいです。発災前に感じていた銭湯の魅力と、今まさに感じられる銭湯の魅力、そこに違いはあるんでしょうか。 もともと感じていたのは、銭湯には町の痕跡というか、人格も宿るということです。自分がどこかの銭湯に行くと、その土地に住んで、通っていらっしゃる方たちの会話を聞くだけで、どんな町なのかという魅力が伝わりますよね。 また、「裸のコミュニケーションを伴うコミュニティ」が銭湯にはあります。どれだけデジタル化が進んでも、フィジカルの伴う関係性は重要で、こうしたものを育めるのが銭湯ならではの魅力で、価値だと思っていたんです。 でも発災後は、公衆衛生を維持するインフラとして、有事の際の銭湯のあり方に重きを置くようになりました。例えば「災害に強い銭湯のあり方」が協議され、次の震災が発生してしまった場合、その地で市民を救う銭湯がひとつでも増えていけばいいと思っています。 ――これからの世の中で、銭湯が施設として生き残り、持続可能な存在となるために必要なものとはなんだと思いますか。 理想を言うなら、自給自足型のインフラ設備になることですね。電気も水道もよそから引かずに水を暖められれば、基本的には経費がかからないですから。こうした発想をデザイン的に伝えたり、価値を可視化するのも大切でしょう。人材とコミュニティに関わる新たな視点をもたらすでしょうし、新しい浴場組合のあり方に繋がるかもしれないですね。 まじめな話、僕は、銭湯のことを「そこにある町との運命共同体」だと考えています。銭湯という場は「共同体として隣の人をケアする意識」を育み、地域のまちづくりにも寄与しますよね。ですから持続可能性に繋げるのであれば、銭湯施設をやみくもに残そうとするのではなく、施設側が地域全体を温められるような取り組みや意識を持つべきだ、と思うんです。
「彼ら」がやったことなんだから
――以前、新谷さんは珠洲市のことを「自然と人が調和している町」と話されていましたね。しかし元日の地震を受け、地元の人たちや自然との繋がり方そのものも大きく変節したのではないでしょうか。今この町に実際感じられる変化や発見についてお聞かせください。 人の話で言うと、もともとあったお互いがケアし合う相互扶助の関係や自治意識が今も発揮されていると思います。地域間でも人々の間でも、助け合っている面を非常に感じますね。その方自身が被災者でありながらも、さらに苦しい町に行って助け合うような、細やかなシーンをよく目にするんです。 各地区でコミュニティを作って、聞き出した情報を共有しながら、どんな町にしていくのかとみんなで考えて、みんなで意見を出し合えるのは、まっすぐな方々ならではと思います。 お伝えしたいのは、本当に、住民の皆さんが粘り強く生きているということです。多少水が止まっても生活できますし、たとえ物流が途絶えても、残っていた野菜や保存食で生き延びていく姿などから、あらためてたくましさを感じます。心底から尊敬しているんです。 自然との向き合い方も変わりません。印象的なエピソードでいうと、住民の方と一緒に遅くまで泥かきをやっていたら、「もうぼちぼちその辺で終わらせよう」というというタイミングで、「わっちゃがやったも、少しはわっちゃでやってもらわんなん」と。 その言葉を簡単に直訳すると「『彼ら』がやったことなんだから、『彼ら』に明日以降の天気で片付けてもらおう」という感じ。「彼ら」というのは、自然現象を身近な感覚で擬人化したもの。この感覚があるからこそ、僕たちは、「彼ら」の泥が残った野菜を「彼ら」の雨で流して食べる――。 ――持続可能なこれからの「復興」……という表現はなかなか難しいので言葉を選びますが、次のフェーズを見据えたうえで、珠洲市には今、何が必要なんでしょうか。 やっぱり一番は「住まいと人材」です。住宅の再建に至るその前の、中間的な場所としての「住まい」と、それぞれのコミュニティや施設を運営するための「人材」。なるべく滞在して関わる人が、移住者も含めてここで生活できるようにする、ということが大切でしょうね。 ここで重要なポイントは、中間から支援する人材でしょう。どうしても行政と住民の間では意見の分断が起こり、それぞれが思い描く価値というもの大きくずれてしまうことが気に掛かるのです。 行政としては、一番大事なのがインフラ、つまり道路水道だと考えるのでしょうが、住民からすれば、住まいと「なりわい」を優先してほしいわけです。しかも、それらをただ原状復帰するのでは足りず、新たな形として住民が提案したものを行政が執行したり、予算を付したりしていくことが肝要です。 こうした橋渡しのためにいかなる言語化を果たすか、それを行う人がいるか、ということが、これからおよそ2年後となる次のフェーズに向けて必要だと思っています。