なぜ、米国人は「MAGA」に熱狂するのか…“偉大な”1900年頃を想起させる危ない思想
トランプ氏を大統領に再選させる原動力となった「MAGA(米国を再び偉大に)」のスローガン。支持者たちは、なぜMAGAに熱狂するのか。1900年頃の“偉大な”米国を想起させるが、経済や外交における米国第一主義のみならず、人種・女性差別や反ユダヤ主義を再び勢いづかせる危うさがある。 【写真】スキンヘッドに「MAGA」の入れ墨、危ない感じがヒシヒシと伝わってくる? (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 132年ぶりに異例の大統領返り咲きをはたしたトランプ氏。彼のモットーである「MAGA(米国を再び偉大に)」はあまりに有名となったが、筆者はなぜこのフレーズに米国人がこれほど熱狂するのか長い間わからなかった。 だが、11月19日に通商・産業政策を担う商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏の発言でようやく理解できたと感じている。 ラトニック氏は投資銀行などを営むキャンター・フィッツジェラルドの最高経営責任者(CEO)で、トランプ政権移行チームの共同議長を務めている。 ラトニック氏は選挙期間中「米国が偉大だったのは1900年頃だった」と主張し続けてきた。当時は所得税がなく、あるのは関税のみだった。米国はその後、関税をあきらめ世界に貢献してきたが、再び自国第一主義に戻るべきだというのが同氏の主張だ*1 。 *1:「タリフ・マン」新政権が傾聴(11月13日付、日本経済新聞) 関税をすべての貿易相手国に対して10~20%、中国に対しては60%に引き上げれば、関税収入は大幅に増加し、所得税減税のための財源が確保できることになる。 商務長官に任命されたことで、ラトニック氏は自らの手で持論を実現する機会を得られたというわけだ。
■ トランプ氏の「敵」を成敗する姿勢に溜飲を下げるMAGA信奉者 1900年頃の米国はたしかに黄金時代だった。1901年にUSスチールが誕生するなど、米国は重化学工業の飛躍的発展をテコに超大国にのし上がった。 「米国例外主義」という言葉が国民の間に広がっていた。自国に利益をもたらす場合を除いて米国は国際法に縛られるべきではない、という考え方だ。 トランプ次期政権も自国の経済的利益などに合致しない限り、第2次世界大戦後に自国が主導してつくりあげた国連、GATT(現・WTO)、国際通貨基金(IMF)といった世界システムを遵守しないだろう。米国がこのような行動に出れば、第2次世界大戦後の世界システムが大きく揺らぎ、終焉を迎える可能性すら十分にある。 それ以上に心配なのは、米国社会の分断がさらに深刻化することだ。 ラトニック氏が「真のMAGA支持者だけで政権を固める」と述べたように、トランプ氏は信頼関係を築いた「忠臣」を登用する姿勢を鮮明にしている。忠臣たちがこれまで敵視してきた組織のトップに任命される例も少なくない。政権移行チームが軍高官の「解任リスト」を作成したとも噂されている。 トランプ氏が憎き「敵」を成敗しようとする光景を見るにつけ、多くのMAGA支持者たちは溜飲を下げているに違いない。 敗北したハリス副大統領は「トランプ氏が大統領に返り咲くことで暗黒の時代が始まる」と総括したが、米国には既に深い闇が存在しており、成長から取り残された多くの人々が闇の中で見つけた星がトランプ氏だったというのが正しい認識だと思う。 ロイターが11月19日に公表した調査によれば、トランプ氏が就任から100日間で優先的に取り組むべき課題として「インフレ」を挙げた有権者の割合は約35%と最も高かった。次いで移民対策が30%、「国際貿易や関税に力を注ぐべきだ」との回答は1%にとどまった。トランプ氏に肯定的な評価を示したのは44%、否定的な評価を下したのは51%だった。 トランプ氏は移民問題について一定の成果を挙げるだろうが、インフレは頭の痛い問題だ。関税政策などのせいでインフレが再び加速するリスクが高いからだ。 暮らしぶりが一向に改善しないことに不満を募らせるMAGA支持者たちが、「積年の恨み」を晴らす行動に出るのではないかとの不安が頭をよぎる。