宮島未奈氏、疾走エンタメお仕事小説『婚活マエストロ』インタビュー「私にとって小説を読むことは発見だから、自分の本で嫌な気分にはさせたくない」
2023年の初著書にして本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』、及び今年1月刊行の続編『成瀬は信じた道をいく』以来の、ファン待望の新作が刊行された。
宮島未奈著『婚活マエストロ』である。主人公は、冒頭の2023年10月10日時点で満40歳を迎えた、自称〈こたつ記事量産ライター〉の〈猪名川健人〉。学生時代からの下宿に今も住み、大家の〈田中宏〉や友人と時々会う以外は誰と関わるでもなかった在宅ライターの彼が、ひょんなことから地元浜松の婚活パーティに参加。結果的には主催者の〈高野豊〉社長や司会者の〈鏡原奈緒子〉をサポートする側に回っていく、巻き込まれ型のお仕事小説だ。 ポイントは彼が婚活する側ではなく、それを見守る事業者側にいること。全6話の章題が「婚活初心者」から「傍観者」「旅行者」「探求者」「運営者」「主催者」と進むごとに健人自身や彼を取り巻く世界そのものが変わっていく、変化と選択を巡る物語でもある。 シリーズ2作で95万部を突破。舞台となった滋賀県大津市内には主人公・成瀬あかりのイラストが描かれたラッピング電車が走り、聖地巡礼に訪れるファンが絶えないほどの社会現象となった成瀬シリーズといい本作といい、それにしてもなぜ宮島作品はこうも読み進むのが楽しいのだろう。 「そこは意識的ではないんです。例えば成瀬はちょっと変わった女の子を書こうと思って、それにはどんな行動を取らせるかを決めていくわけですけど、ちょうどその頃に西武大津店の閉店を知ったんです。夏休み中、毎日そこに通う中学生がいたら面白いかなくらいの感じで書き始めただけで、要はあんまり考えて書いたわけではないんです(笑)。プロットも作りませんし。 今回の作品も担当編集者が昔、婚活の司会のアルバイトをしていたらしく、ぜひこの題材で書いてほしいと言われたんですね。つまり婚活の運営側という要素は先に決まっていて、私はケンちゃんの視点で書くことなど、もらった種をどう膨らませ、どこで線を引くかを決めていきました」 確かにきっかけは意外と何でもいいのかもしれない。その朝、健人は〈よう、ケンちゃん! 誕生日おめでとう!〉と、竹箒を手にした田中宏に声をかけられる。5年前に妻を亡くした80代独身の田中はある会社のHP記事を書いてほしいと頼み、〈お昼おごるし〉の一言で連れて行かれたのが、婚活会社〈ドリーム・ハピネス・プランニング〉だった。 そもそも浜松で人が集まるのか自体、健人には謎だったが、社長からHPを見せられた途端、〈疑問の泉がストップした〉。その画面は〈これ、阿部寛のアレじゃん〉と田中が言うほど古く、しかもそこには今夜のパーティの告知があり、思わず〈マジか〉と声が出た。 「阿部寛のホームページという慣用句を知らない方もいるとは思ったんですけど、あれを見た時に湧きおこる感情はそうとしか言えない唯一無二のもの。それでも調べる人は調べると思って、そのまま書いてみました」 ともかく一度パーティを覗いてみることにした健人は、人の相性を〈匂い〉で嗅ぎ分け、驚異の成婚率を誇る婚活マエストロとしてSNSでも噂の40歳、鏡原と出会うことになるのだ。
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