「人の話は90%が自慢と愚痴」は誰の名言? “聞く力”の阿川佐和子が熟成させた『話す力』(レビュー)
本来なら10年前に出ていた本かもしれない。阿川佐和子『話す力 心をつかむ44のヒント』である。ベストセラーとなった『聞く力』の出版は2012年1月。「聞く」が売れたら、当然次は「話す」をテーマに書くものと思われた。 しかし、著者はそうしなかった。「聞く」と「話す」は表裏一体であり、連続すれば似た内容になった可能性がある。10年にわたる知見やエピソードの蓄積と熟成を経て、ようやく本書を登場させた。 思えば、旧ツイッターのXなどSNSのインフラ化で、現在ほど多くの人が積極的に発言している時代はない。同時に自分が発した言葉で窮地に陥る事態も頻発している。本書が示すヒントは今こそ有効だ。 たとえば、「問題は何を話したいか」だと著者は言う。話したいこと、そして話したい情熱の有無が出発点だ。また「相手の話に共感し反応する」、「相手との距離感をつかむ」、その上で言葉を「使い分ける」ことも、SNS時代の話す力として必須だ。 さらに本書では、著者が出会った多彩な人たちの言葉も紹介されていく。中でも「人の話は九十パーセントが自慢と愚痴である」という東海林さだおの名言が光る。確かに自慢も愚痴も話す側は気持ちいいかもしれないが、聞く側はつらい。これを意識するだけでも、自分の話す内容や話し方が変わってきそうだ。 昔から「文は人なり」といわれるが、話すこともまた人格の表れだと知る。 [レビュアー]碓井広義(メディア文化評論家) 1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年にわたりドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。著書に「少しぐらいの嘘は大目にー向田邦子の言葉」(新潮社)、「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」(同)、「ドラマへの遺言」(同)ほか。毎日新聞、北海道新聞、日刊ゲンダイなどで放送時評やコラムを連載中。[公式サイト]碓井広義ブログ 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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