哲学者・千葉雅也が「センスの哲学」で伝えたいこと――芸術と生活をつなぐ
千葉:まずインプットの量が必要なのはそうでしょう。経験的な勘ですが、インプットの量の閾値があると思っていて、それを超えると理解力が高まって、作れるようになったりする。でも、ずっと大量にインプットし続けなければいけないとは思わないです。インプットがかえって邪魔になることもある。ただ、若いうちに勉強(インプット)しておいた方がいいとは思います。
ファッションへの期待
WWD:3年ほど前のインタビューで、あまりファッションに興味がなくなっていると話されていましたが、今はどうですか?
千葉:当時は、コロナ禍もあって、ファッションにも閉塞感があり、飽和していると思っていました。でも、今はアジアのファッションも面白くなってきていて、また動向を追ってみようかなと思い始めています。
WWD:先日公開された千葉さんの「note」でのファッション論では、面白いファッション、スタイルを考えていきたい、と書かれていました。
千葉:そこでの「面白い」というのは、コンテクストにしても、形態にしても、複合的な意味での凸凹をいかに組み立てるかですね。僕のベースは90年代以降のファッションで、ハイなものとローなものといった、対立するものの混在に関心がある。それは変わっていないですね。言い換えると、二項対立の脱構築が問われるようなファッション。
ただ、ハイとローのコンテクストの衝突にしても、現在ではより難しくなっている感じがします。文脈を衝突させるというのは、ある種のアイロニーであり、ユーモアであり、そこに一種の政治性があると思うのですが。
WWD:ファッションに期待することはありますか?
千葉:デザイナーやメーカー、メディアに期待していることってあまりないんですが、人々に期待していることはあります。それはとにかく、変な服の着方をしてほしいということ。それに尽きるかな。
WWD:服に限らず、千葉さんの中に根本的にはそれぞれ自由に楽しんでほしいという思いがあるんですね。