哲学者・千葉雅也が「センスの哲学」で伝えたいこと――芸術と生活をつなぐ
千葉:そうですね。何かものの良し悪しを、「ぱっ」と判断できるっていうのが、広く「センス」と言われているんだと思うんですよね。「あの人は絵が分かる」「音楽が分かる」「料理が分かる」など、いろいろなことについて言われるわけです。その「直観的に分かる」ということは、知性のあり方として古代からの伝統的なテーマではあるんです。そういう伝統を踏まえた上で、より現代的な芸術の問題に近いところでの「センス」について考えました。
WWD:そして「センス」は生まれもったものではなく、磨くことができると?
千葉:「センスが良い、悪い」は生まれつきの能力のように言われることが多いと思うんですが、この本では、必ずしもそうではないと説明しています。
多くの人は、何かを鑑賞するときに、「この作品にはこういう意味があって、何のために作られたのか、何を伝えたいのか」と説明できることが必要だと考えるようです。ですが、それよりも、もっと即物的にどういう配置で絵が描かれているのか、 色のバランス、音の対比、面積のコントラストなどはどうなっているのか、そういう組み立ての面白さを判断するということが、「センス」につながる。それは、ある程度勉強し、練習すれば、理解できるようになると思います。
美術やファッションの教育現場ではそういうことを教えていると思いますが、一般には、そういう即物的にものを見るということ、それはフォーマリズム(形式主義)※といいますが、 そういうことに慣れてない人が多いようです。皆さんやっぱり意味が分かんないとダメなんじゃないのかと思ってしまうんですよね。
※「フォーマリズム」は、芸術を語る上で重要なものは「形」であると考える芸術理論。フォーマリズムは作品にある抽象的で構成的な特質に注目する。「抽象的で構成的な特質」とは具体的に、線、形、色などの要素。
ですから、僕はそんなに目新しいこと言っているつもりはなくて、本書を通して、鑑賞者と作り手とがつながるようなものの見方を広く伝えたいと思っています。