太田格之進、号泣「一番悪いのは、運を持っていなかった自分」優勝目前で痛恨のトラブル/スーパーフォーミュラ第5戦もてぎ
DOCOMO TEAM DANDELION RACING同士の優勝争いとなった2024全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦もてぎ。ファイナルラップまで続くはずだった僚友対決は、誰もが予想していなかった残酷な結末が待っていた。 【写真】首位を争いのなか、牧野任祐の目前でトラブルによりスピンを喫した太田格之進 トップを走っていた太田格之進はチームメイトである牧野任祐の約1周にわたる猛攻を振り切って、自身2勝目をつかみ取るべく逃げ続けていたが、ファイナルラップに入る手前の90度コーナーでスピン。そのまま走行不能となり、優勝争いから脱落を余儀なくされた。 代わってトップに立った牧野は今季2勝目をマーク。しかし、レース後の公式映像インタビューではまったく笑顔がなく、太田を気づかうコメントを口にした。 ■佐藤琢磨アドバイザーらの励ましも あの時の90度コーナーで、太田のマシンに何が起きていたのか──。 「ブレーキングからダウンシフトのところでスロットルが戻らなくて、減速しきれないままコーナーに入っていって、ブレーキを離した時に僕は(アクセルを)踏んでいないんですけど全開のような感じになってしまいました」と太田。 どうやらアクセルペダル自体が踏みっぱなし状態で戻ってこなくなってしまったとのこと。「仮にスピンして立て直せたとしても、走れる状態ではなかったです」と状況を説明してくれた。 じつは今季第3戦スポーツランドSUGOの土曜フリー走行でも同じトラブルが発生し、太田は馬の背コーナーでクラッシュを喫していた。チームも対策を施しており、チーム監督であり6号車担当の吉田則光エンジニアは「しっかり対策もしましたし、(壊れた)パーツのマイレージも管理していましたが、交換に至る手前の段階だったので……今年からダンパーが変わってイナーターが使えなくなったことで、共振周波数が変わったことが影響しているのだと思います」という。多くは語らなかったが、吉田エンジニアも悔しい表情をみせていた。 モビリティリゾートもてぎのスーパースピードウェイに設置されたポディウムで表彰式が始まったころ、ピットに帰ってきた太田はダンディライアンのサインガード付近に座り込み、悔し涙を流した。 傍らには佐藤琢磨HRCエグゼクティブアドバイザーが座り太田に声をかけ続けていた。スーパーフォーミュラの加藤寛規ドライビングアドバイザーや、昨年までスーパーGTでチームメイトとして戦っていたPONOS NAKAJIMA RACINGの伊沢拓也監督も、声をかけにきていた。 「ひとりひとり、いろんな言葉をかけてくれました。僕がトラックから降りて(ピットに向かって)歩いていていたら、一番最初に琢磨さんが来てくれました」と太田。 「あとは寛規さんが来て『めちゃくちゃカッコよかったよ』と言ってくれました。その後に別のチームですけど、伊沢さんが来てくれて『お前のレースはやっぱりオモロイわ』と言ってくれて……正直、だいぶ救われました」 すでにレース終了から2時間以上が経過していたが、その時にかけられた言葉や心境を思い出してか、太田の目には再び涙があふれていた。 そして、「僕が思うのは『運が悪いやつ』はダメだなと。そこが一番悔しいんです」と、胸の内に溜めていた心境をひとつひとつ語り始めた。 「やっぱり『運も実力』と言うじゃないですか。クルマが壊れたからしょうがないというのもあるかもしれないですけど、運をつかめなかった自分が悔しい」 「(初優勝した)昨年の最終戦も3周目くらいにギヤのトラブルが出ていたんですけど、最後まで走り切ることができました。正直いつ止まってもおかしくない状態だったんですけど、運が良かったからなのかもしれないです」 「(今回は)ラスト1周で止まるって……ある意味で情けないなと。(ゴールまで)2分もなかったわけじゃないですか。あと2分耐えてくれたら、勝っていた可能性が高かったので……運を味方につけられなかった。そこが一番悔しいというか、(心境的に)引きずっているのは、自分が運を持っていないことです」 その中で、佐藤エグゼクティブアドバイザーをはじめ多くの人が太田のもとに来て声をかけてくれたことは、彼にとって唯一ポジティブになれる要素だったようだ。 「(レース後に)みんなが来てくれて、それによって励ましをもらいました。チェッカーは受けられなかったけど、ラスト1周まで全開で走ったことは、意味のないことではなかったことかなと思います」 「結局、リタイアしてしまったら『スタートしていないのと一緒』だと思うし、結果としては一緒だけど……ラスト1周まで全力で走ったことは、意味があったことだなと思えました」 ■悔し涙を流した観客の少年を「招待したい」 そしてスロットルトラブルについては、チームとこのようなやり取りがあったと太田は語る。 「チーフメカの春田さんが目に涙を浮かべながら『ゴメン』って言ってきてくれました。めちゃくちゃ頑張ってトラブルが出ないように対策してくれていたのは僕も分かっています。だから、僕もまったく悪いと思っていないし、みんなが勝つために一生懸命やってくれているのを知っています」 「SUGOでトラブルが出た後もチームはすごく対策をしてくれていました。誰が悪いとか、そんなのはまったくないです。一番悪いのは、運を持っていなかった自分なのかなと思います」 「今日はチームメイトが勝てて、チームとしては良かったと思うかもしれないけど、6号車も『このメンバーで勝ちたい』という想いがあって、それが昨年の最終戦で達成できてすごく嬉しかったです」 「だから、6号車で優勝したいという気持ちはめちゃくちゃあるので……春田さんが涙を浮かべながら謝って来てくれて『もっと頑張ろう』と僕も思いました」 現状では次戦のことについてはまったく考えられないというくらいの心境だという太田。それでも、来週にはスーパーGT第5戦鈴鹿が待ち構えており、その翌週にはスーパー耐久……9月以降も次々とレーススケジュールに追われていくことになる。 「僕は切り替えがめちゃくちゃ早い方なんですけど、今回は本当に……」と、流石に今回は時間がかかりそうな様子の太田。それでも「レースって、ある意味で残酷だなと思う1日だったなと感じました。でも、これがあるから次に勝った時の喜びが嬉しくなると思うので……また頑張りたいと思います」と締め括った。 なお、太田のマシンストップ後に、グランドスタンドで悔し涙を流す少年が公式映像に映し出された。 レース後に太田自身もそのことを知ったらしく、以前にF1でキミ・ライコネンがレース序盤でリタイアした時に、彼を応援する少年がスタンドで号泣している姿が映し出され、フェラーリチームがその子をすぐパドックに招待したというエピソードがあったが、「できるのであれば、僕も同じようにあの子を招待したい」と太田。 さすがにレースが終わった後ということで、少年とそのご家族にコンタクトするのは難しい状況ではあるが、太田の想いが実現することを、心から願いたい。 [オートスポーツweb 2024年08月25日]