プロ転向から7年 「ラブの大会」で悲願の初優勝【舩越園子コラム】
今週の「ザ・RSMクラシック」は、PGAツアーのフェデックスカップ・フォールの最終戦であり、来季のシード権が獲得できるフェデックスカップ・ランキング125位以内を目指すラストチャンスの大会でもある。 熱い口づけを交わすマクニ―リー【写真】 だが、その始まりは、デービス・ラブIIIがザック・ジョンソンらの協力を得て、社会貢献のために創設した「ラブの大会」。その「ラブ」は、デービス・ラブの「ラブ」と、何かに苦しんでいる人々に注ぐ温かい愛情の「LOVE」のダブルミーニングである。 ラブを慕う選手たちが大勢移り住んでいるジョージア州シーアイランドの仲間たちが手を取り合って作り出したチャリティ目的の「ラブの大会」は、PGAツアーの協力やスポンサーのサポートも得て、2010年に「マックグラッデリー・クラシック」という大会名で第1回大会が開催された。 試合会場では、毎年、チャリティ・オークションが開催される。第1回大会では、ラブの愛車の高級バイクを筆頭に、選手やその家族、関係者からさまざまな品々が出品されていた。落札された金額は全額、デービス・ラブ財団を通じて福祉団体などへ寄付される。 試合で獲得したバーディー数を競い合う「バーディーfor LOVE」は、バーディー数で1位になった選手に給付金が授けられ、その選手が選んだ団体へ選手の名前で寄付されるという仕掛けのチャリティ企画だ。これまでに700万ドル超を寄付してきた。 スポンサーが変わった2015年からは大会名がRSMクラシックに変更されたが、大会の本質は、昔も今も「ラブの大会」である。 PGAツアーには、「アーノルド・パーマーの大会」や「ジャック・ニクラスの大会」、「タイガー・ウッズの大会」もあり、いずれも破格の賞金が授けられるシグネチャー・イベントに格上げされている。 しかし、「ラブの大会」は、シード権争いが主体となるフェデックスカップ・フォールの最終戦という位置づけで、優勝賞金はシグネチャー・イベントのほぼ半額の151万2000ドルである。 それでも昨年大会の覇者で、今ではすっかりトッププレーヤーに成長しているルドビグ・オーバーグはディフェンディング・チャンピオンとして今大会に臨んだ。今季のフェデックスカップ・フォールで勝利を挙げた7名の優勝者も全員、顔を揃え、すでにシニア入りしているラブやジョンソンも、もちろん出場。ポイントや賞金のためではなく、「LOVE」のために戦った。 社会貢献のため、人々のためにゴルフをすることは、PGAツアー創設当初からの一大目標である。LIVゴルフ絡みで揺れ動いているなか、今年も多くの選手たちが「LOVE」のために出場していたことは、昔ながらの本来のPGAツアーが、いまなお健在であることの証のように感じられ、うれしく思えた。 最終日は大混戦となったが、トータル15アンダー・首位タイで先にホールアウトしたのは、アマチュアのルーク・クラントンと10月の「ZOZOチャンピオンシップ」を優勝したニコラス・エチャバリアだった。 しかし、最終日を首位タイからスタートした29歳の米国人選手、マーベリック・マクニ―リーが、やはり15アンダーで72ホール目の18番を迎えた。そして、フェアウエイからの2打目をピン1.5メートルへピタリ。バーディーパットを沈め、右拳を握り締めてガッツポーズを取った。 マクニ―リーは4人兄弟。「モーター・シティ」と呼ばれるミシガン州デトロイトの自動車業界に長年勤めた祖父が4人全員に車の名前を付け、全員が幼いころからゴルフを始めたそうだ。 フォード車のマーベリックと名付けられたマクニ―リーは、父親の母校でもあるスタンフォード大学ゴルフ部で腕を磨き、17年にプロ転向。20年からPGAツアーで戦い始め、優勝争いには何度も絡んだが、なかなか勝利を掴めず、今日まで来た。 「プロ転向から7年。やっと勝つことができた。信じられない。言葉にならない。今日のバック9は、なかなかスコアが伸ばせず苦労したが、キャディが支えてくれた。チームと家族のおかげで優勝できた」 ツアー5年目にして挙げた悲願の初優勝。感謝の言葉を何度も口にしたマクニ―リーは、「LOVEの大会」にふさわしいチャンピオンだった。 文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)