移民排斥、同調圧力、無力感…人口減少で予想される大衆心理どう向き合うか
2 人口減少社会の構図
もちろん、一人の人は需要者になることもあれば供給者になることもありますので、トータルで見れば、競争が厳しくなる面と穏やかになる面がうまく打ち消しあってくれるかもしれません。ただ、人によっては需要者の側面が強く現れる人と供給者の側面が強く現れる人が出てくることが考えられます。 たとえば、就職する前の若い人はもっぱら製品やサービスの需要者です。人口減少社会では若年層の人数から減っていきますので、彼ら彼女らは豊富に供給される製品やサービスを選り取り見取りに消費出来る、人口減少社会の一番の受益者と言えるかもしれません。 若年層の親の世代は、会社員や自営業者として働いて生活費を稼がなければなりません。中高年の世代は製品やサービスの供給者の側面を強く持ちます。この年代の人たちは所得が増え需要者としての側面も増しますが、所得の相当部分が子供の生活費や教育費として支出されますので、需要者の利益を享受することはそれほどできません。それよりも供給者として厳しい競争に直面して、長時間労働を余儀なくされやすいという意味で、人口減少社会のしわ寄せを受けやすい世代と言えるでしょう(図2)。
ただし、今の日本企業内部の力関係では、このしわ寄せは若年労働者に転嫁されて過大な負担をこの年代に強いることになる可能性も考えられます。ここ数年報じられている若年労働者の過労死の背景にはこのような力学が存在しているのでしょう。若年者の視点から見ると、就職の前後では天と地ほどの状況変化があるとも言えます。就職前には人口減少社会の一番の受益者であったものが、就職した途端に一番しわ寄せを受ける立場になるのですから……。 親世代にある程度余裕あると、実家に「パラサイト」(山田 1999)する選択肢もあるでしょう。しかし、親世代自体が苦しいと「アンダークラス」(橋本 2018)と呼ばれるような状況に陥るかもしれません。具体的な状況は親の状況や企業風土によっても様々になりますが、若い人を巡る社会問題の大きな原因の一つとして就職前後に横たわる巨大な断層の存在が考えられます。 退職後の高齢層はもっぱら需要者の立場に立つことになります。ただ、現在の日本の状況では、当面高齢者の数は増加し、年金の受け取り額が目減りする恐れがありますので、あまり人口減少社会の受益者という感じではないと思われます。