パソナ、淡路島で究極の職住近接 楽天は1日3食を提供
新型コロナウイルス禍がオフィスづくりに新たな潮流をもたらした。社員がリモートワークを余儀なくされたことで、多くの経営者は、オフィスの価値を再認識。コロナ禍が明けると、新事業創出のために部署間交流を増やす仕掛けが欲しい、人材獲得のために魅力的な環境を設えたいなど、「オフィス戦略」が強く意識されるようになった。オフィスづくりを経営に生かす企業を紹介する。 【関連画像】パソナグループの淡路島拠点の一つ「パソナファミリーオフィス」内にある託児所では、ダンスや空手などのレッスンも実施している (写真=パソナグループ提供) 「雇用をつくり出す仕事をしている会社だから、その人に合わせた働き方を提供することは得意だ」。人材総合サービス大手・パソナグループの大日向由香里常務執行役員はこう語る。それを体現しているのが、新型コロナウイルス禍中の2020年10月に設置した、兵庫県・淡路島のオフィスだ。 事業継続計画(BCP)の観点から、人材や事業の東京都内一極集中を解消しようと、本社機能を段階的に東京から淡路島に移転している。 移転初期に開設したのは、オフィスと同じ建物に社宅マンションと保育スペース、インターナショナルスクールを備える「パソナファミリーオフィス」だ。社員は、建物を出ることなく託児所に子供を預け、自宅の階下にあるオフィスで働ける。住宅は55戸あり、住民の大半がパソナグループの社員だ。ひとり親世帯も含め、子供のいる社員の働きやすい環境をつくることで採用増にも貢献している。 現在、島内に7カ所のオフィスを開設しており、社員は毎日、どのオフィスで働くかを決められる。
スーパーの直上を改装
多くのオフィスが空き家やスーパー、店舗の跡地などを活用している。例えば、「イオン淡路店」の3階を改装したオフィスは、島内でも最大級だ。 イオンの売り場のすぐ上に位置しており、このフロアにはスポーツジムも併設している。「ランチにもすぐ行けるし、終業後の買い物も便利」と、特に子育て中の社員や若手に人気だという。地域密着型のオフィスに多くの社員が集まることで「地域ににぎわいが戻り、経済が活気づくきっかけになっていると思う」と大日向氏は手応えを語る。 このように、同社の淡路島のオフィスは職住近接を強く意識している。近所の移動についても、無料バスや、社員が一緒に利用できるシェアカーを整備しており、利便性を高める工夫をしている。プライベートも含めた社員の生活をサポートすることで、淡路島のオフィスで働く社員の出社率はほぼ100%になっている。 こうした働き方は社内でも話題になっている。自由で柔軟な働き方に魅力を感じて、東京からの移住を希望する社員は相次いでいるという。これまでに約1300人の社員が淡路島に移住しており、さらなる増員に備え、新たな社宅の建設を進めている。 ●海外人材の採用を意識 15年に東京・品川から同・二子玉川に移転した楽天グループの本社「楽天クリムゾンハウス」。ここは、様々なバックグラウンドを持つ社員に向けたオフィスづくりを進めてきた。 同社は海外人材の採用を増やすため、12年に社内の公用語を英語に切り替えた。現在は社員の2割強が外国籍である。「働く場である施設のダイバーシティーをどう進めるかについては、早期から検討していた」とファシリティマネジメント部の高橋朋之ジェネラルマネージャーは言う。 当時から考えはオフィス家具にも反映されている。移転に際しては、大型オフィスビルの26フロアで働く1万人以上の社員のために、昇降式のデスクを用意した。体格の異なる外国籍の社員が働きやすいようにとの考えからだった。 宗教面でも細やかな気配りをしている。例えば、1日3食を無料で提供する社員食堂では、イスラム教の戒律に沿った「ハラル」や、インドのベジタリアンに対応したメニューを提供。イスラム教徒の社員が利用する祈祷(きとう)室や、身を清めるための足洗い場も設置されている。 従業員用の社内託児所「楽天ゴールデンキッズ」もある。日本の保育園の仕組みになじみのない海外出身の社員からも引き合いがあり、外国籍の子供も多く在籍しているという。幼児向けの英語教育や音楽、体操などのプログラムを提供している。 これらの実績から楽天はノウハウを蓄積している。楽天クリムゾンハウスをモデルケースに、世界各国に展開するオフィスでも、同様のコンセプトで職場環境を提供しているという。
馬塲 貴子