CMでおなじみ!1934年には「ファスナー加工会社」に過ぎなかったが…現在では、世界市場で圧倒的な存在感をみせる「日本企業の名前」
新規事業開発に成功した企業は、どのように事業を進めてきたのでしょうか? 本記事では、中野正也氏の著書『成功率を高める新規事業のつくり方』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、YKK株式会社の事例とともに、自社の技術や強みから新しい顧客を獲得し、さらにその先へ展開させる方法を紐解いていきます。 都道府県「開業率&廃業率」ランキング
窓で有名な「YKK」の新規事業開発
YKK株式会社(以下:YKK)は、1934年にファスナーの加工・販売をはじめた会社です。 1959年にアルミ・銅用の押出機を輸入し、それによって加工能力が大きくなりました。ファスナー用に使う以上のアルミ合金を生産できるようになったことから、その能力を活用するために、同じアルミ製品であるアルミサッシの製造をはじめました。 当時のCFTチャート※を図表1に示します。 ※顧客・機能・技術の3点を頂点とした三角形型のチャートのこと。新規事業開発の担当者が議論を重ね、自社ならではの他社とは一味違う新規事業を考えるためのキャンバスとなる。 YKKは原材料から機械までを自前で製造する川上遡上主義の下で、高品質な製品を低コストで生産することを徹底していました。このことからファスナー事業・アルミサッシ事業ともに、F(顧客に提供する機能)は「高品質・低コスト」といえます。 それを支えるT(技術)は、アルミ製品の生産技術になります。C(顧客)を見ると、ファスナー事業のC(顧客)はアパレルメーカーやバッグメーカー。一方、アルミサッシ事業のC(顧客)は工務店やハウスメーカーであり、従来のファスナー事業の顧客とは異なります。 すなわち図表1のCFTチャートから、当時の新規事業の展開は、既存事業であるファスナー事業のF(機能)とT(技術)を活用しながら、新しい顧客に向けて展開した新規事業であるといえます。 「高品質・低コスト」で差別化することのむずかしさ 通常ですと、F(機能)に高品質や低コストとすることは、あまりありません。どちらもよくいわれるものである反面、それを徹底し、競合企業のなかでダントツの低コストや、他社をしのぐ高品質を維持することがむずかしいからです。 YKKはこれを徹底し持続性のある競争力としている、といえます。ファスナー事業は競合他社をしのぐ高品質低コストを武器に、世界各国へ展開していきました。 その結果、既存事業だけではさらに事業を拡大することが見込めないことから、アルミサッシ事業を起点として新規事業開発をおこないました。それが建材(アルミサッシ)事業です。 1976年に、シンガポールに建材事業のための現地法人を設立し、アルミサッシの海外での製造販売をはじめました。さらに、ビルの窓部分を構成するカーテンウォールや、カーテンウォールのなかでもとくにメッセージ性が高く、高難度のものであるファサードの製造販売に展開しています。