「この選択は人生の冒険」洪水リスクにさらされる荒川河川敷のホームレスたち
助け合い人生を切り開く、そんな風潮がなくなった
桂さんと斉藤さん(仮名)の付き合いには、称賛すべき良い話がある。 2年前のある日、桂さんは荒川を上流に2~3キロ行った戸田橋まで、ホームレスの友人に会いに行き、そこで斉藤さんと知り合った。斉藤さんは当時、戸田橋の下でダンボール箱で生活していた。 桂さんはそれがあまりにも安全ではないと思い、斉藤さんにこう言った。「私の住む新荒川大橋のほうに引っ越してきてください。丈夫なテント小屋を建ててあげるから」 数日後、斉藤さんは本当に引っ越してきて、桂さんが建てた新しい家に住み始めたのだ。その後、彼らは兄弟のように親しくなった。 桂さんはこう話す。 「私が子供の頃は、何か困ったことがあれば、近所の人同士で助け合った。今はそんな風潮がなくなった。だから、今の若者にはもっと冒険が必要だ」 生活の中で勇敢に冒険し、冒険の中で懸命に生を求め、生を求める中で和やかに助け合い、共に助け合いながら新たな人生を切り開く! 人生はこうあるべきだ。桂さんは、まさにそれをやり遂げている。 桂さんと話をするだけで、私はいつも学びを得ていることに気づいた。 前に一緒に食事をしたとき、今の日本人は以前ほど礼儀正しくない、と私が愚痴をこぼしたことがある。ランニングをするとき、向こうから走ってきた人に私は挨拶をするのだが、いつも相手にしてくれない人がいる。どうして? 桂さんはこのように話した。 「人は走るとき、呼吸とペースを整えることに集中しなければなりません。この状態では、他のものに邪魔されたくないものです。それが相手があなたに返事しない理由かもしれない。お互いがただ散歩しているときだったら、挨拶をすれば、きっと返事をしてくれますよ」 ありがとう桂さん! また一つ勉強になりました。
死にやすい橋を選ぶより、生きにくい道に戻ってほしい
ところで、荒川に掛かる新荒川大橋について、桂さんは私に、外国人にはあまり知られていない話を教えてくれた。 私たちの目の前にそびえる雄大な橋は、実は自殺者の多い場所でもある。橋は高く、水も深い(橋の中央の川の水は少なくとも10メートルの深さがある)ため、石を体に縛って飛び降りれば、すぐに姿を消すことができるという。助けようと思っても難しく、とても「死にやすい」場所なのだろう。 私は何度もこの橋の上を通ったことがあるが、橋を渡る人は皆、慌ただしく行ったり来たりしている。私だけがぼんやりとキョロキョロしていて、時々立ち止まって写真を撮ったりしていた。 聞いたところによると、お節介好きなドライバーは車で橋の中央を通る際、窓の外で誰かがうろうろしているのを見つけたら、警察に通報することがあるそうだ。 思い詰めて新荒川大橋で命を絶とうとする人に、私は言いたい、死にやすい橋を選ぶより、生きにくい道に戻ってきてほしい。人は死んだら二度と生き返らないが、生きている限り、火を浴びて生き返る(中国語で「浴火重生」という)、つまり逆境から立ち直り、再び輝くことができるのだから。 桂さんが10年前にホームレスになったのは一つの冒険だったと言ったが、考えてみれば、私が今ホームレスの問題を取り上げるのも一種の冒険ではないか。 私たちの骨の中には冒険精神が宿っており、血統の中にも遠方の少数民族の遺伝子が含まれているのかもしれない。 シルクロードの各民族の血統について研究したことがある私の姉から、上の3人の写真を見て、連絡があった。 「今度の取材の時、鼻の高いこの2人の先祖3代はどこの人か、アイヌや沖縄の人じゃないかと聞いてみてほしい」と言うのだ。 私にはそれを聞く勇気はない。 彼らに、「あなたは、私たちのことを記録し取材してもまだ足りないのか、祖先3代までも調べ尽くすつもりか?」と言われるのが怖いのだ。 ※ルポ第4話(9月18日公開予定)に続く 相談窓口「日本いのちの電話」 厚生労働省は悩みを抱えている人に対して相談窓口の利用を呼びかけています。 0570・783・556(10:00~22:00) 0120・783・556(毎日 16:00~21:00、毎月10日 8:00~翌日8:00) 文・写真:趙海成