障がい者との交流を通して「ファッション」の新しいカタチを知る「ファッション・フォームズ」
約5カ月間、月2~3回つくばを訪れ、服と映像作品を制作
山口ディレクターは約5カ月間、映像ディレクターとアシスタント、時にはデザイナーも一緒に月2~3回のペースでつくばを訪れ、作品と服を完成させた。「ファッションに向き合うことは、姿形だけではなく相対する方の環境や人生に眼差しを向けることができる行為。美しさの有り様は多様だからこそ、当事者のために作る1着に深く納得したい気持ちがあった。自然と密なコミュニケーションになり、結果的に当事者やご家族の置かれている環境と向き合うことになった」と山口ファッションディレクター。
2023年から始まった本プロジェクトを私は2年続けて取材をしたが、作品からは前回より当事者とその家庭の環境、福祉の制度などさまざまな事情が垣間見れた。マジョリティが決めた常識が、マイノリティな身体を持った人を社会の隔てていることに、僕らの身近なファッションを通じて気付かされる映像作品になっている。
特に今回は、パーソナルなファッションの問題から当事者が持つ背景や社会との問題にまで触れているように感じた。作中で「エタブルオブメニーオーダーズ」の新居デザイナーが「『薬を服用する』という言葉の中には、『服』という文字が入っている。それには意味がある」と触れていたことが印象深い。服が、「当事者のメンタルヘルスをケアする」ということもファッションの役割と力であり、その後の人生を設計し生活をリ・デザインする力すらあるのだと、改めて考えさせられた。山口ディレクターの「ファッションはツール」であるというスタンスは、山口ディレクターが担当した春希さんの口からも出て、その考え方が伝承されていた。「たかがファッション、されどファッション」だ。ファッションには人生を変える力がある。表層的な問題解決で終わらせず、当事者と社会との問題まで広げられたことが、この作品の真価であり、奥行きの深さだと感じた。