全英が泣いたテレビ番組場面も再現「前向きなメッセージを受け取って」 ジェームズ・ホーズ監督「ONE LIFE」
時間軸動かし作品の強度に
映画は30年代の緊迫感と50年後のゆったりとした空気感で、メリハリよく見せる。ニコラスが年齢を重ねた時代は「過去にとらわれているニコラスを見せたかったのでカメラは動かず、画角の中でアクションが収まる撮り方をした」。一方で「若いニコラスは時間が迫る中で、使命として目的を成し遂げようとする人物を追うカメラワーク。言い換えれば、キャラクターに寄せて撮った」と明確に使い分けた。 「年をとってからのニコラスが若き日と同じようになるのは、テレビ局のスタジオに入るシーンだけ。彼の肩のあたりにカメラがあるので、ニコラスが経験していることを観客もそのまま経験する作りになっている。そこだけ、若い時と同じにした」 映画はふたつの時代を頻繁に行き来するが、脚本ではそれほど時間軸を動かすようには書かれていなかった。「編集の段階で何度も動かした。より強度の高い作品になったと自負している」と意図を明かした。
歴史的な場所で撮影
ニコラスが大事に持ち続けているブリーフケースとスクラップブックの中身も次第に明かされていく。子供たちを乗せた最後の列車がどうなったかも含め、ミステリーというほどではないが何かが起きたように見せ、後半でそれが明かされる形を取り入れた。「こうした要素は、時間軸を動かしたことで物語を突き動かす効力になってくれた」と語る。 劇中何度もプラハの駅が登場する。子供を列車に乗せてイギリスに送り出すシーンで、緊張感がみなぎっている。史実と同じ駅を使っている。「この出来事が起こった場所で撮影できたのは意味のあること。演じる俳優にとってはなおさらだったと思う。駅の床から歴史が立ちこめてくるような感じさえした。実際の場所だからこそ生じる信ぴょう性を深く感じた。さらに、駅は建造物として大きく、そのスケール感が作品にもダイナミックさを与えた」と付け加えた。 実話の映画化で物語に説得力が出ることはプラスだが、事実の重さに負けかねないなど、大変な側面もある。ホーズ監督が大事にしたのは「ファクト(事実)と、物語を経験した実在の人物に対するリスペクト(敬意)」と話す。「存命なら、彼らの前に立ってその映画を見てもらえるかどうか。それができれば、誠実に作った証し」。ただ、こうも話す。「元が実話だとしても、映画になれば真実の一つのバージョンになってしまう。これは不可避なこと。カメラを向けただけで、セリフを書いただけで、それは一つの解釈になる。大切にすべきは、本質を見失わないこと、あるいはそれを見つけることだ」