〈再エネは支援しても、原発は自由化逆行?〉あべこべな新聞報道、電力自由化市場での原発建設制度の正しい理解の方法
数年以内に必要な需要については、原発の再稼働で応えられるが、中長期の電力需要については、設備の新設が待ったなしだ。 新設が間に合わなければ、安定的な電力供給が必須のデータセンターと半導体工場は日本には作られず、企業は競争力のある電気料金と安定的な電力供給を求め海外に流出する。原発に限らず発電設備の新設を支援する制度が必要だ。
英国が先陣を切る具体的な制度
1990年から電力業界の民営化と自由化を開始した英国では、2010年代から発電設備が不足する懸念がでてきた。このため、英国政府は14年から容量市場と呼ばれる発電設備を維持すれば資金が支払われる制度を導入した。 新設設備には最長15年間にわたり資金が支払われる。設備への資金は電気料金を通し負担される。 発電設備は建設後通常数十年使用されるので、最長15年の期間では事業者は設備建設に踏み切れない。一方、脱炭素のために再エネと原子力設備の新設が必要とされる。 英国政府は、再エネ設備と原発新設のための制度CfD(Contract for Difference)を14年に導入した。再エネと原発からの電力を一定価格で買い取ることを事業者に約束する制度だ。 CfDに基づき、フランス電力公社(EDF)はヒンクリーポイントC原発建設の契約を16年9月に英国政府と締結した。合意された買取価格は1メガワット時当たり92.5ポンド(12年価格、日本円では約18円/kWh)だった。ちなみに24年の洋上風力のCfDの上限価格は、資材の上昇を反映し着床式で73ポンド、浮体式で176ポンド(いずれも12年価格)だ。脱炭素のためのコストは高くつく。 さて、CfDによる原発建設には批判があった。事業者が工費の上振れ、工期の遅れ、金利上昇などのリスクを取り、リスクを買取価格に織り込んだ結果、買取価格が高くなったとの指摘だ。 つまり、EDFは起こりえる事態のリスク分の費用も織り込んだ結果、高い買取価格が必要だったということだ。消費者にリスクを分散することにより、買取価格を92.5ポンドから50ポンド、60ポンドまで引き下げることも可能だったとの指摘もあった。 このリスク分散の仕組みを入れ買取価格を下げようと試みる制度が規制資産ベース(Regulated Asset Base-RAB)モデルだ。工費の上振れなどのリスクを電気料金に反映することでリスクを分散し結果として電気料金を下げる、総括原価に近い方式だ。 消費者の負担が工事期間中から開始されるが、その分将来の電気料金が下がるので、メリットがある。この負担を「上乗せ」と表現し、電気料金に触れない記事には違和感がある。