「悔しさをエネルギーに変えて成長」【前編】 箱根駅伝〝三代目・山の神〟が振り返る快進撃の背景/神野大地(青学大ОB)
笑ってしまうぐらい絶好調だった
――では、特に気負いもなく、いいかたちで挑めましたか? 神野 そうですね。めちゃくちゃ調子が良くて、当日のウォーミングアップ中も、調子が良すぎて笑ってしまうぐらいでした。スタート前の監督との電話では「最初の1kmは3分05秒で入りなさい。勝負は山に入ってからだから、箱根湯本(3km付近)までは抑えて行け」という指示を受けたのですが、いざ走り出すと、最初の1kmは設定より15秒も速い2分50秒でした。監督からは「速すぎるから(ペースを)落とせ」と言われ、僕自身も「さすがに2分50秒は速いな」と思ったのですが、ペースを落としたはずの次の1kmも2分52秒と速かった。上りが少し始まっていたにもかかわらずその状況だったので、次に原監督に声をかけられた時は「今日の神野はめちゃくちゃ調子がいいから、タイムを気にせず、そのまま行け!」と言ってもらったことで、自分でも変に制御することなく、「監督がいいと言ってくれたし、このまま行こう」と決めました。あの時、監督から「〝落とせ〟と言ってるだろ!」などと言われていたら僕の走りも固まっていい動きができなかったと思うので、監督が僕の調子を感じてくれて背中を押してくれたことも結果につながったのかなと思っています。 ――あの時は2位から先頭に躍り出たわけですが、レース内容をよく覚えていますか? 神野 鮮明に覚えていますね。先頭の駒澤とのタイム差も45秒とちょうど良く、僕自身、調子が良かったとはいえ、めちゃくちゃハイペースで突っ込んでいたので、大平台の手前の9kmぐらいでちょっときつくなり、「監督に最初に言われたとおり、やっぱり落としておけば良かったな」という思いがよぎった途端、先頭が結構近づいているのが見えたんです。箱根の山はカーブが多くて前のチームは見えにくいのですが、チラッと前が見えたことで急に元気が湧いてきて、きつかったのですが、「とりあえず、前に追いつくまでがんばってみよう」と思うようになりました。 ――実際に追いついた段階で、どんなことを考えていましたか? 神野 僕の心拍数はかなり上がっていましたから「これは行きすぎたかな」と自分の中で心配になって、駒澤の選手の後ろについていったん呼吸を整えたんです。すると、本当によ~いドンの時のような(楽な)状態ぐらいに戻すことができました。あの時は並走したり後ろについたりして400~500m走ったのですが、そのうちペースが違いすぎて(相手と)歩幅も合わなくなり、「だったら、ここで後ろにいるよりも、もう行っちゃえ!」と腹を決め、呼吸もだいぶ楽になっていたので、もう一度イチからスタートできたような状況で残りの距離に向かうことができました。仮に、あの時、5位ぐらいでタスキをもらっていたら、4位に追いついていったん休んでも、まだ3位や2位を追わなければならのはかなりきついじゃないですか。それが、2位でもらえて、45秒差だったことが、僕を後押ししてくれた大きな要因だと思っています。 ――駒大を突き放してからの気持ちは? 神野 かなり差は開いているとは思ったのですが、正直、何秒離れていたかよくわかっていなかったので、自分としては1秒でも早くゴールすることしか考えていませんでした。