積極派は小泉氏のみ…ライドシェア全面解禁、専門家「サービス品質の確保が大前提」 自民党総裁選
一般ドライバーが自家用車を使い有料で客を運ぶ「日本版ライドシェア」が、自民党総裁選で論点の一つになっている。現在はサービスの実施主体をタクシー会社に限定し、稼働する時間帯にも制約がある。小泉進次郎元環境相は米国のようにIT企業などタクシー事業者以外の参入を認める「全面解禁」を訴える。ほかの候補は反対を含め積極的ではない。ライドシェアの現在地を探った。 【写真】ライドシェアの全面解禁に関する各候補者の主張 「全面解禁し、地方の移動の不便を解消する。業界や既得権益側が認める範囲内でしか政策を進めることができない自民党を変える」。小泉氏は「聖域なき規制改革」の象徴として取り組むと強調する。 スマートフォンのアプリを使い、利用者と自家用車のドライバーをつなぐライドシェア。移動手段が乏しい「交通空白」の解消が目的だ。2種免許を持たないドライバーはタクシー事業者の管理下で働く。運行の曜日と時間帯は限定され、使いにくさが指摘される。 小泉氏は、タクシー業界を念頭に「既得権益側」と批判。利便性を高め、来年の通常国会に必要な法案を出すと息巻く。明確に「反対」なのは高市早苗経済安全保障担当相と石破茂元幹事長だ。両氏とも現状の「検証」が優先だと語る。賛否を明確にしない6人の中には後ろ向きな声もある。 島根県の丸山達也知事は全面解禁について「タクシー会社がつぶれ、(移動を)誰にも頼みようもない地域が広がる」と危ぶむ。「多くの事業体が参入できるようにするが、今の事業者を排除するものではない」と小泉氏周辺は理解を求める。民間調査会社「MM総研」が6月に全国の男女千人(15~79歳)を対象にしたインターネット調査では「利用したくない」が8割を超えた。犯罪リスクやドライバーの管理体制などへの不安が多く、一般市民に「足」として浸透していない現実も浮かび上がる。 国土交通省は今月、運行時間や曜日などを拡大する緩和策を発表し、47都道府県で導入するよう取り組みを強化する。ただ、参入業者の開放を含めた全面解禁は政府内で意見が割れたまま。大和総研の鈴木文彦主任研究員は「全面解禁には事故時の補償、明朗会計などサービス品質の確保が大前提で、認証制度の整備が欠かせない」と指摘する。 一方、タクシーを含めた交通インフラが乏しい地方では、自治体などが運営する「公共ライドシェア」が増加傾向にある。九州では大分県別府市が利用範囲の拡大を進めている。現在は病院や商業施設など13カ所に停留所を設け、決まったルートを定時運行する。他地域でも運行の要望があるが、バスやタクシー事業者との調整や安定的な財源確保などが課題だ。 全国300超の市町村長らでつくる「活力ある地方を創る首長の会」は「地域の特性や交通事情に配慮しつつ、公共ライドシェアも含めた全面解禁が必要」との立場。市町村横断の広域的な配車アプリや一元管理システムの構築などの支援も求めている。 「日本版を拙速に全面解禁すると、都市と地方の格差がますます広がる。段階的にやることが必要」。同会関係者はこう警鐘を鳴らす。 (金子晋輔、村田直隆)
ライドシェア
「白タク行為」の例外として4月に始まった「日本版ライドシェア」は、タクシー事業者が実施主体となり、ドライバー募集や安全管理、事故対応などを担う。大都市部では配車アプリのデータを基に、運行できる曜日や時間帯、車両数が地域ごとに決められている。導入済み、もしくは導入を申し出た地域があるのは福岡、佐賀、熊本、鹿児島など34都道府県。自治体やNPOなどが実施主体となる「公共ライドシェア」は全国で275自治体が取り入れている。