意外と分かっていない「自由民主主義」 ジョン・ロック『統治二論』を基に改めて考える、あるべき政治の仕組みとは
■ ロックが考えた政府の役割とは? ロックは「自然な人間がどんな状態かを考えれば、政治のあるべき姿が分かる」と考えた。人間が誕生した頃の状態(=「自然状態」)では、一人一人の人間はみな完全に自由で平等だった。 例えばリンゴを採れば、それは自分の労働で得た所有物なのでリンゴの「所有権」は自分にある。自分の命・身体・人格も自分のモノだ。この自分に大切なモノを守る権利を「固有権」という。固有権は、本人以外の何人(なにびと)といえども、いかなる権利も持ってない。誰も自分の命を奪い、傷つけ、モノを奪う権利はない。 これは逆に言えば、私たちは完全に自由だからといって何をしてもいいわけではない、ということだ。例えば他人の命を奪ったり、モノを破壊することは許されない。こうして自然状態の人間が従うべきルールを「自然法」という。 ただ、中には悪いことをする輩(やから)もいる。私たちはそんな輩と闘う権利も持つ。しかし個人で戦うとしんどいし、社会も荒れてしまう。そこで人間は政府をつくり、悪い輩を裁いてもらうことにした。 つまり政府の本来の役割は、皆にとって良いことをすること、つまり「公共善を増やすこと」なのである。こうして政府をつくると、私たちは自分が持つ「悪い奴をとっちめる」という固有権の一部を政府に返上して、委託することになる。だから政府がある状態なのに、私たちが自分で悪い奴をとっちめると、逆に警察に捕まるわけだ。 つまり私たちは固有権の一部を政府に与え、管理してもらっている。では、その政府はどんな仕組みなのか?
■ ロックが考えた政府の仕組み 専制国家では、暴君が自分で都合の良い法律を作って、その法律に基づいて自分への反逆者を逮捕したり、死刑にする。そこでは「法律を作る力」と「法律を守る力」が一体化している。そして二つの力が一体化すると恐ろしいほど強力な権力が出来上がり、腐敗し始めるとひどい世の中になる。 「民主主義の制度でも、悪いトップが選ばれればひどい世の中になる」と考えたロックは、立法権力と執行権力の分割を提唱した。 【立法権力】人々が従うべき法を定める権力。これが国家の最高権力である 【執行権力】法に基づいて、実際に業務を行う権力。行政や裁判が執行権力に当たる ロックはこうした権力を持つ人を選挙で選び、自然権の一部を彼らに一定期間預ける仕組みを提唱した。その仕組みが選挙である。 まず国民が選挙して、立法権力を持つ期間限定メンバー(代議士)を選び、国家の法律を定める。そして別に執行権力を持つ期間限定メンバーも決めて、法律が守られているかを監視し、守らない者にあらかじめ決めた罰則を与える。期限が来たら、再び選挙で新メンバーを選ぶ。 ロックの提言は、その後、政治哲学者シャルル・ド・モンテスキューによって「司法・立法・行政を相互に独立させた3機関に分けて委ねよう」という三権分立に進化した。現在の日本は、この仕組みに基づいている。 立法権力は、国会(衆議院と参議院)が持つ。国会議員は選挙で選ばれ、任期もある。この国会で、人々が従うべき法を定める。執行権力は、各官庁の大臣と裁判官が持つ。各官庁の大臣は、衆参両院が選んだ総理大臣が任命し、法に基づいて業務を執行する。司法権力は、裁判所が持つ。裁判所は人々の行動が法に基づいているか否かを判断する。そして最高裁判所の裁判官は、任命直後と任命10年後に行われる衆議院選挙で国民審査を受ける。 以上が現代の自由民主主義の基本的な仕組みだ。選挙とは、私たちが自分の自然権の一部を預けるに値する代行者を選んで、国家や自治体といった共同体の運営を任せるための仕組みなのだ。 あなたが「今の社会はダメだ」と思ったら、政府に預ける自分の自然権の一部を託せる代行者を選挙で選び、国家や自治体を運営してもらうことだ。そして選挙は定期的に行われる。もし選挙で選んだ代行者が約束を守らなければ、次の選挙で別の代行者を選ぶ意思表示をすればいい。 中には「自分は政治に関わりたくないから、選挙に行かない」という人もいる。しかし現実には、その人は「投票しない」という行動で世界に関わっている。そして「投票しない」ということは、実は「現政権の支持」と同じことなのだ。 こうしてロックは選挙で代議士を選ぶことを提唱した。一方で「そんなやり方は私たちを奴隷にするだけであって、真の民主主義なんて実現できない」と猛烈に反対して人民主権の理想像を提唱したのが、フランスの啓蒙思想家ジャン=ジャック・ルソーである。 このルソーの思想は、1789年のフランス革命で理論的な柱となった。そしてルソーの思想が分かれば、私たちは合意形成のあるべき姿をより深く学ぶことができるのだ。 そこで次回は、ルソーが考えた理想の合意形成のスタイルと自由民主主義の姿を紹介しよう。
永井 孝尚