「わりきり報道」で一番損害を被るのは国民 ── 水島宏明氏に聞く(5完)
第1次安倍政権の頃と比べてメディア業界も分裂し、一枚岩ではなくなりました。また安倍自民党はこの総選挙でも大勝すれば憲法改正も視野に入れるほど圧倒的に強大なものになります。こうした状況を考えると、わざわざ安倍政権に嫌われるような選択をするとどんな不利益があるか分からない。それなのに今回の要望書そのものが「脅し」だと指摘するような気骨あるテレビ局経営者や幹部はいません。 報道機関としての役割を果たすという正義だけではやっていけない。ここはしばらく従うしかない。NHK、民放を含めて、多くのテレビ局幹部たちは考えています。 今回の要望書を意識したのか、各局のテレビ番組から「政策・争点」や「実績の評価」に踏み込む報道が今回はめっきり減りました。テレビは「若者の政治離れが問題」「投票だけでもしよう」などと呼びかけながら、自らが「わりきった」ようなつまらない無味乾燥な報道に徹していて、政治離れの原因を作っています。 それぞれのテレビ局で進んでしまっている「わりきり報道」。本当はそれによって、一番、損害を被るのは国民なのだ、という視点が欠けていると思います。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。