「わりきり報道」で一番損害を被るのは国民 ── 水島宏明氏に聞く(5完)
衆院選に先立ち、自民党がNHKや在京民放テレビ局に対し選挙報道の「公平中立、公正」を求める要望書を出しました。昨年の参議院選挙直前に自民党が行った「TBSへの出演・取材拒否」や、テレビ朝日の「椿問題」(1993年)など、政治とテレビはいつも微妙な力関係にあります。なぜ、テレビの選挙報道は中立性や公正さが求められるのでしょうか? 現状のテレビ報道のあり方、課題は何なのでしょうか? 元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクターで法政大学社会学部教授(テレビ報道)の水島宏明氏に聞きました。 --------------- 今回の自民党の要望に細かく対応しようとすれば、放送にあたってかなり煩雑な確認が必要になります。まるで解けないパズルを解けというような難題です。テレビ制作の現場からすればすごく面倒です。 「そんな面倒なことをするぐらいなら、もう選挙について報道はやめてしまおう」というモチベーションがテレビ制作の現場に働くことになります。 あるテレビ局の報道幹部は「自民党の要望書によって『無難に』とか『安全運転で』という雰囲気が社内でますます強まっている」と打ち明けてくれました。安全運転で、というのは自民党から後でクレームを入れられないように、あまりエッジの効いた(つまり、自民党側が政権批判だと受け取らないような)取材・報道をしない、ということです。現状の問題点を伝えて結果的に現政権に批判的な報道をしない、ということです。 自民党が出した「要望書」でテレビ各社の報道関係者の脳裏に真っ先に浮かんだのが昨年6月のTBS「NEWS 23」の報道をめぐって参議院選挙直前に自民党が行った「TBSへの出演・取材拒否」です。国会の会期末となって電気事業法改正案などが廃案になった点をこの法案成立に期待していた人の声とともに伝えたことを「偏向報道」だとして、いよいよ選挙戦に突入というタイミングで選挙報道番組には欠かせない「党首や幹部の出演・取材」を拒否しました。