「どんなに年月が経とうとも、そう簡単には切れないアーティストとファンの絆」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 予報通り、雨が降ってきた目黒の夜。タクシーから降りた瞬間、手土産に雨粒がポタリ。急いで拭いて、私はライブハウスの列に並びました。 生きていると、思いもよらぬことが起こります。先月、とある雑誌に「あの人が綴る憧れの人。」というエッセイを寄稿しました。私が憧れの人として選んだのは、ピンク・レディー。ご存じ、日本を席捲した大スターです。彼女たちが2000年代初頭に復活した際、ライブに行って感銘を受けた話を書きました。 結婚や出産という女性のライフステージが大きく変わるアラサー時代、私はどちらにもあまり興味が持てませんでした。当たり前のようにそれらを欲する同世代を横目に、私にはなにか欠損があるのではないかと思っていたほど。パートナーはいても興味は仕事ばかり。満足してはいたものの、後ろめたさがあったのも事実。そんな私が、この生き方を肯定された!と感じるようなライブをピンク・レディーは行ってくれたのです。 あれから幾星霜。そのことを記したら、出版社がピンク・レディーのお二人に原稿を送ってくださった。感激したのは、お二人から感想をいただけたこと。幸運にもお目に掛かる機会を設けていただけることになりました。 目黒のライブハウスに足を運んだのは、未唯さんのライブにご招待いただいたからでした。未唯さんは長く音楽活動を続けており、定期的にライブも行っています。20年前にピンク・レディーのライブを拝見したときも驚きましたが、現在の未唯さんもパワフルに歌い踊り益々エネルギッシュ。1時間以上人前で歌うのって本当に体力が必要なのに。すらりと伸びた長い脚を筆頭にスタイルも抜群で、51歳の私より一回り以上年上とは、とても思えませんでした。ピンク・レディーのヒットナンバーだけでなく、ジャズシンガーのマリーナ・ショウの曲や、ソウルシンガーのアリス・クラークのカバーも披露。音楽を心から愛していることが端々から伝わってきました。 お客さんは往年のファンと思しき人が多く、立ち上がって踊ったり、声援を送ったり。日本の60代、元気で若い! どんなに年月が経とうとも、アーティストとファンの絆って、そう簡単には切れないものだと胸が熱くなりました。ライブ後、ご挨拶させていただいた未唯さんはキラキラと輝いていました。45年前も、20年前も、今も変わらずに。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年11月4日号
ジェーン・スー