AIが進化すると、予報官や気象予報士はいなくなる? 気象庁と民間気象会社の答えは「ノー」、その理由とは
気温、湿度、風…。国内外の膨大なデータを扱う現代の天気予報は、人工知能(AI)と相性が良いとされ、既にさまざまな予測に利用されている。さらにAIが進化していけば、予報官や気象予報士は必要なくなるのだろうか? 気象庁と民間気象会社に取材すると、答えは「ノー」だった。その理由と、それぞれが描くAIと共存する未来とは。(共同通信=西蔭義明) 【写真】24時間365日、交代制で職員が詰める 気象庁「全国予報中枢」を公開
※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽予測改善に手応え 北側の冷たい空気と南側の暖かい空気を分ける局地的な前線。その位置によって、気温は大きく変わる。 2021年12月下旬の東京都練馬区。気象庁が従来の方法で気温を予測したところ、前線の位置を北寄りに見誤り、実際より3~4度高く予想してしまった。一方、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれるAI技術を使うと、前線を南寄りに予測。練馬は現実と同様に前線の北側で、予想気温も従来より低めとなり、誤差が2~3度改善した。 このシステムは開発段階だが、気象庁数値予報課の予報官工藤淳さんは「予測が劇的に良くなることがある」と、精度向上への手応えを口にした。 情報通信白書などによると、AIブームは、単純な問題に対して解を出せるようになった1950年代後半~60年代の1次、専門的な解答が可能となった80年代の2次と続き、2000年代から現在にかけては3次とも4次とも言われる。
今のブームをけん引する技術が深層学習だ。人の脳の神経細胞を模して、大量のデータから特徴を見つけ出し、自動的に学習することができるようになった。人の指示に基づき文章や画像、音声などを生成するAIも、この技術が基盤となっている。 気象庁は、天気予報へのAI利用を1977年には始めていたが、比較的シンプルな技術にとどまっており、深層学習は実用には至っていない。現在は2030年ごろの導入を目標に研究を進めている段階だ。 ▽人間の目 「シミュレーションやAIによる予測を、人間が気象学の知識や経験から適宜修正するのが今の予報だ」。工藤さんは現在の天気予報では人間もAIも不可欠だと解説する。 予報はまず、観測結果を基にスーパーコンピューターでシミュレーションをすることから始まる。このシミュレーションのプログラムは「数値予報モデル」と呼ばれ、物理学や化学の法則に基づき、大気や海、陸の時間変化を計算するよう設計されている。