AIが進化すると、予報官や気象予報士はいなくなる? 気象庁と民間気象会社の答えは「ノー」、その理由とは
ただ、シミュレーション結果は、気温や湿度、風など大量の数字の集まりで、人間が短時間で理解するのは難しい。そこでAIを使い、数字の羅列から、天気や最高気温など分かりやすい情報に置き換える。その過程で、数値予報モデルでは細かくて計算式に組み込めない地形などの誤差もAIが補正する。 その後、予報官の判断を経て気象情報を発表するが、例えば、シミュレーションとAIが予測した最大降水量が少ないと考えれば多くし、気温が低いと高く修正する。人が最後、責任を持つのが今の予報だ。 ▽二つの理由 今後、深層学習を導入し、AIが進化を続ければ、予報官は必要なくなってしまうのだろうか。そんな質問をすると、気象庁技術開発推進室の技術開発調整係長、戸松秀之さんは主に二つの理由から否定した。 一つ目は「処理の過程が分からないところがある」ため。つまり、AIだけで予測すると、なぜそんな結果になったか分からず、根拠が「ブラックボックス」になってしまうからだ。気象庁は単に雨が降るかどうかだけを予測しているわけではない。「防災官庁」として大雨などの場合は警報を出し、災害が起こる前に注意を呼びかける。「なぜ大雨になるか分からないけど逃げて」では、適切な避難につながらない。
二つ目は「今まで起きていない、あるいは起きたことが極めて少ない極端な現象を予測しづらい」という点だ。AIは大量の情報を吸収し賢くなっていく。その分、学習していないことを予測することは苦手だという。気象庁としては、例えば「100年に1度の大雨」を予測できなかったら信頼に関わり、弊害が大きい。工藤さんも「100回中90回すごく当たるけど、10回は変な値が出てくるのでは困ってしまう」と語った。 気象庁は深層学習を利用するシステムを開発中だが、工藤さんは「これまでのAIより複雑なことを表現できるが、きちんとしたシステムとして構築するには調整することが膨大。生成AIを使えば、精度がすごくよくなるという、そんな単純な話ではない」と難しさを吐露する。 それでも、もうAIなしの未来は想像しにくい。戸松さんは「AI技術が進展していって、それを活用することで、気象庁の業務としてより高度なことができるのではないか」と期待した。 ▽AIを使う側