賃金や雇用にも影響、「エネルギーコスト高問題」とは?
「電気代上がったよね?」「家計が苦しくなるよね?」。なるほど確かに電気代の値上げは家計を圧迫します。しかし、単に家計の問題だけではなく、電気代が原因で給料が下がったり、場合によっては解雇されたり、会社が倒産したりするかもしれないというやっかいな問題を日本が抱えています。
エネルギーコスト高問題とは?
政府は、総じて「高い電気料金が経済活動の足かせになっている」という問題を「エネルギーコスト高(だか)問題」と言っています。 政府が決定したいわゆる「骨太の方針」には、「エネルギーコストの上昇や供給不安が、新たな投資や雇用の拡大を阻害する」と明記されました。これと前後して、産業界からは「原発を再稼働させてほしい」「自然エネルギー導入に関する負担も下げて欲しい」という強い要望が相次いで出されています。 2010年からの比較で、家庭用の電気料金は2割、産業用の電気料金は3割値上がりしました。ほとんどの企業が価格に電気料金の値上がり分を転嫁していませんので、その分が企業の収益を圧迫していると言えます。 電気料金が再値上げされるとどうなるのでしょうか? 産業界のアンケートによると、業種を問わず企業のおよそ半分が「人員、人件費の削減」をすると言っています。数%の利益を出せるかどうかで勝負している企業は、赤字になってしまえば従業員を雇えなくなるという危機感を持っているのです。 そんな危機感をよそに、エネルギーコスト(≒電気代)の上昇はなかなか止められません。どういう背景があるのでしょうか?
原発を稼働させたら解決するのか?
いまの電気料金は、原発を再稼働することを前提として設定されています。 たとえば九州電力。昨年5月に設定した電気料金は、川内原発が同年7月に再稼働することを想定していました。しかし、優先審査を受けることになっている同原発でさえも再稼働していません。高い燃料費は利用者に転嫁しておらず、電力会社が負担しています。電力会社の負担も大きく、いつ値上げが申請されてもおかしくない状況です。 「電力会社はそうやって原発を動かそうと企んでいるのだな?」という声も聞こえてきそうですが、原発を動かしたら「エネルギーコスト高問題」がすべて解決するかというと、そうでもないのが面倒なところです。 東日本大震災以後、日本の燃料輸入額が10兆円増えています。すべての原発が停止してから天然ガスなどに依存する率が高くなっているからです。 国の試算によると、10兆円のうち、原発が発電した電気をまかなおうとして輸入した燃料は3.6兆円(一人あたり年間3万円)です。実際に3.6兆円だったのかどうかは、ネットでも議論のあるところですが、原発を再稼働したからといって、計算上10兆円は帳消しにできません。 また、天然ガスを輸入する際、長期で契約すると安くすむのですが、いま日本は緊急避難的に契約しているので、高い値段で買わなければなりません。原発が動くという前提では長期契約は結べませんし、日本が買うということ自体が天然ガスの値段を釣り上げている側面もあります。 原発再稼働でその分電気代は安くなるでしょうが、大きな流れとしては、燃料の輸入量が増加しているという事実に加え、燃料の価格が上がったこと、円安が原因となり、輸入燃料に多大なコストがかかっているということが背景にあるのです。