「アナと雪の女王」日本公開から10年 現代的プリンセス像に大人も子どもも夢中…音楽でも世界が広がる愛の物語
世界中で大ヒットし、旋風を巻き起こしたディズニー長編アニメーション「アナと雪の女王」(2013年)。日本では2014年に劇場公開され、早10年。日本テレビ系の「金曜ロードショー」枠では、11月29日(金)から“3週連続冬のディズニー映画特集”の先陣を切って本作がオンエアとなる。そこで“アナ雪”と親しまれ、衰えない人気を誇る物語をあらためてレビューする。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】氷の世界もディズニーアニメのさすがの描写力で美しい ■アンデルセン童話を大胆に脚色 「アナと雪の女王」とは――。いまさら?と思われるかもしれないが、ひとまず基本的な情報をまとめておきたい。 原作は、デンマークを代表する童話作家・詩人のハンス・クリスチャン・アンデルセンによる「雪の女王」。とはいえ、童話は雪の女王に連れ去られた仲良しの少年を探すため少女が旅に出るというストーリーで、王家の姉妹が主人公でオリジナルキャラクターもいっぱいのアナ雪はインスピレーションを受けたというほうがいいだろう。 劇場公開時、全米の興行収入でディズニーアニメーション映画史上歴代トップに。「第86回アカデミー賞」長編アニメーション賞と主題歌賞(歌曲賞)の受賞という追い風もあり、日本では公開5日目で観客動員100万人突破し、さらにはロングラン上映に至った。 ■一緒に口ずさみたくなる音楽にのせて進む物語 触れた物を凍らせる不思議な力を持つアレンデール王国家の長女・エルサは、8歳の時に妹のアナを危険な目に遭わせて以来、力をコントロールできるようになるまで、と部屋に閉じこもって生きることに。危ない目に遭った記憶を消されたアナは、仲良しの姉が心を閉ざしてしまった理由が分からなかった。 月日がたち、成人したエルサが王位を継ぐことに。だが、戴冠式の日、アナとのやりとりの中でエルサの力を封印する手袋が外れてしまい、集まっていた人々の前で物を凍らせてしまう。その場を逃げ出したエルサは、ノースマウンテンという場所にたどり着き、魔法の力で氷の宮殿を作って暮らすことにする。そのころ王国は、エルサの暴発してしまった力により夏の季節から雪と氷に閉ざされた真冬に一変。アナは姉と王国を取り戻すため、エルサを探しに出る――。 ディズニーアニメーションといえば、歌、音楽が切っても切り離せない。幼いアナがエルサを遊びに誘う「雪だるまつくろう」、戴冠式の日のアナとエルサの声が重なる「生まれてはじめて」、運命の人に出会ったとアナがハンス王子と歌い上げる「とびら開けて」と、そのシーンごとの心情に沿ったメロディーは一度聴けば耳に残り、口ずさみたくなる。それによって物語を思い返すこともできる。 そんな中でやはり群を抜いているのが主題歌でもある「レット・イット・ゴー~ありのままで~」(Let It Go)。これを劇中で歌うのはエルサ。王国を逃げ出してたどり着いた山で、自分を解き放ち、もう何も気にせずに自分の“ありのままで”、自由に生きようという決意がつづられている。その時の歩みを進めるエルサの一歩一歩がなんと力強いことか。そしてその決意の象徴となる氷の宮殿が出来上がるときのゾクゾク感。楽曲のみの力もあるのだが、あらためて映像との一体感で物語の力を押し上げているのだと実感する。 ■ディズニーアニメ初の女性監督の視点を入れた新しいプリンセスと真実の愛 ディズニー長編アニメーションとして53作目となる本作。長い歴史の中で初の女性監督としてジェニファー・リーが起用された記念すべき1作でもある。「シュガー・ラッシュ」(2012年)の脚本を担当し、本作も当初は脚本家としての参加だったが、途中からその才能を見いだされて、「ターザン」(1999年)などのクリス・バックとの共同監督に抜てきされた。 ウォルト・ディズニー・ジャパンの公式サイトに掲載された、日本公開10周年に際して寄せられたコメントで同監督は「『アナと雪の女王』では、“2人の姉妹を主人公にした真実の愛の物語”という当時では新しい愛のかたちを表現しました」と明かしている。 そう、この物語では“真実の愛”が鍵となっている。雪と氷に包まれた世界で凍り付いた冷たい心を溶かすのはどんな愛なのか。その“愛”のかたちは、大人ならばハッとさせられることになるはずだ。 エルサとアナがどんな真実の愛にたどり着くのかももちろんだが、彼女たちが体現するプリンセス像も新しい。自分の力を恐れながらも、その力と共に1人で生きていこうとするエルサ。エルサの戴冠式で会った王子と意気投合してすぐに結婚の約束をするような大胆で行動的なアナ。アナ雪以前のディズニープリンセスたちのように一歩踏み出していくのは変わりないが、魔法を個性にしたのをはじめ、出会ってすぐ結婚を決めたり、王子様とのキスといった“お約束”なことを上書きし、夢や望みは現代的だ。夢のような王子様との出会いでのときめきとはまた違う、エルサやアナには共感性が生まれた。 ■愛すべきサブキャラクターたち 物語として新しいプリンセス像ではあるが、きれいな大人の雰囲気のエルサと愛らしいアナは、子どもたちにとっては憧れ。 そんな2人のプリンセスにも負けず劣らず人気なのが、アナがエルサを探す旅の途中で出会う雪だるまのオラフだ。実はエルサが王国から逃げる途中で、魔法の力で作り出したのだが、幼いときのアナとの思い出が込められていて、姉妹をつなぐものとして物語の重要な存在。夏に憧れるというユニークさ、そして無邪気なオラフの登場に子どもたちはくぎ付けに。いや、子どもたちだけでなく、大人もついにっこりしてしまうかわいらしさだ。 アナの旅の仲間には、無骨な山男のクリストフとその相棒であるトナカイのスヴェンもいる。彼らのやりとりは、ふっと癒やしてくれる時間になる。 大人、子ども、どちらも引き付ける世界観。日本語吹き替え版では、エルサを松たか子、アナを神田沙也加さんが担当し、両者共に歌のうまさは言うまでもなく最高だ。その歌声に乗せて広がっていく真実の愛というテーマは、例えば年齢だったり、そのときの状況だったりで感じることも変わるはず。何度見ても、何年たって見ても、何かが心に響く。長く愛される作品の大きな魅力だろう。 「アナと雪の女王」はディズニープラスで配信中。 ◆文=ザテレビジョンシネマ部