羽田の国内線発着枠配分、23年度から実績評価へ ANA系コードシェア論点=検討委
国土交通省航空局(JCAB)は5月17日、羽田発着枠配分基準検討小委員会(委員長:竹内健蔵東京女子大学教授)の3回目の会合を開いた。2025年以降の国内線発着枠配分に対する考え方を検討する有識者会議で、航空各社の取り組みを評価する期間を新型コロナが「5類」へ移行した2023年度から5年間とするなど、これまでの議論を踏まえた検討案が航空局から示された。 [【空撮】ANAとJALの大型機が並ぶ緊急事態宣言直後の羽田空港 ◆23年度から評価へ 委員会での過去2回の議論から、航空局は6つの論点を提示。1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響、2)羽田発着路線のコードシェア、3)共同持株会社による経営統合、4)「1便・3便ルール」の扱い、5)運賃低廉化、6)羽田発着枠政策コンテストについてで、各委員から意見や質問が出たほか、航空会社側から見解も示された。 主な論点は、1)の新型コロナの影響をどう判断するかと、2)のコードシェア。1番目のコロナ影響については、航空会社による発着枠の活用状況に対する評価期間を、現在は2019年度から2023年度までの5年間の実績としているが、検討案では政府による行動制限が期間中にあったことから、公平・公正な評価は困難だとした。2023年5月に新型コロナが「5類」移行となったことから、2023年度から2027年度までの5年間を新たな評価期間として提示した。 17日の会合には竹内委員長ら7人のうち6人が出席し、2023年度から5年間とする案におおむね肯定的な意見が出された。コロナ期間中の各航空会社による努力を、客観的な指標で評価することは難しいものの、2023年度の旅客需要回復期に対応できたかなどで、一定の判断が可能という見解が示された。 ◆ANA系コードシェアの扱い 羽田発着路線のコードシェアは、エア・ドゥ(ADO/HD)とソラシドエア(SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)の3社が、全日本空輸(ANA/NH)とコードシェアを実施。事実上ANAグループによる発着枠の利用だと、日本航空(JAL/JL、9201)とスカイマーク(SKY/BC、9204)の2社が前回の会合で指摘した。 1990年代の規制緩和後に参入したスカイマークとエア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの4社は、航空局が「特定既存航空会社(旧称・新規航空会社)」と分類。これらの航空会社に対する経営支援として、50%を上限にコードシェアが認められており、スカイマーク以外の3社がANAとコードシェアを実施している。 また、3社にはANAの親会社であるANAホールディングス(ANAHD、9202)が出資していることに加え、ANAの管理職が3社に出向・転籍しているケースがあり、コードシェアだけではなく、事実上ANAのグループ会社と化している実態が、これまで有識者から指摘されてきた。有識者からは、ANAと3社が事実上一体化していることで、運賃競争が不十分との声も出ている。 委員を務める東京工業大学の花岡伸也教授は、航空会社間の運賃競争が十分とは言えない一例として、2023年に他大学から出された論文の中に、羽田発着路線のイールド(旅客1人の1キロあたり単価)を研究した結果、特定4社のうちスカイマークが参入した路線ではイールドが低下しているのに対し、ANAとコードシェアを実施している残り3社の路線では上昇がみられたという。 仮にコードシェアを実施しなくなった場合、スカイマーク以外の特定3社がどういう経営戦略をとるのかと花岡委員から問われ、ソラシドエア(SNJ/6J)の高橋宏輔社長は「需要が高い福岡はスカイマークが進出して運賃が下がったが、ほか(の九州各地)は高く、福岡以外の観光がつぶれるという危機感をもって(ソラシドの前身の)スカイネットアジア航空ができた。すごい安い運賃にしたが会社はつぶれ、コードシェアで経営が立ち直った。コードシェアをなくすと元に戻り、便数も減らさなければならない。地元の需要のみでは経営的により厳しくなる」と説明した。 スカイマークの洞駿(ほら・はやお)社長は「コードシェアを各社が自由にやるのは当たり前であり、我々はそういうことを問題にしているわけではない。コードシェアで肩代わりをして、路線を撤退しているところもあり、分析をちゃんとやって欲しい。これは独禁法の問題でもある。独占・寡占の路線は必ず運賃が上がるのは明らか。極端に言うと我が社が入っているところは、幹線だろうが地方だろうが下がっており、データも提示できる」と、ANAがコードシェアを実施している3社に路線を事実上移管し、不採算とみられる路線から撤退していると指摘した。 ANAの松下正・上席執行役員は「私たちが運航しない路線を(特定3社と)コードシェアをすることで、大手(ANA)と大手(JAL)の競争が生まれている。コードシェアを振ることで、国際線で(ANAが加盟する)スターアライアンスのメンバーがANA便名で地方に送客する」と、自社の国際線だけでなく、アライアンスによる地方送客にもつながっていると理解を求めた。 ◆竹内委員長「競争阻害になっているかで判断を」 また、筆頭株主が日本政策投資銀行(DBJ)のエア・ドゥとソラシドエアは、2022年に設立された共同持株会社リージョナルプラスウイングスの傘下。検討案の3番目で、共同持株会社による経営統合をどう扱うかの観点で議論された。 航空事業課の重田裕彦課長は、「路線の選定、ダイヤの設定、運賃の設定、機材の選定と、航空事業の根幹となる意思決定や実施を統一的に行う場合」に、今回の経営統合が合併と同等と判断される基準になりうる、との考えを示した。また、「あえて書かせていただいたのは『公正かつ自由な競争』」と、経営統合を行う以上は利用者利便の向上につなげるべきだとした。 JALと日本エアシステム(JAS)による「JAL/JAS」統合では、9枠(便=往復)分の羽田発着枠を国交省へ返上している。 竹内委員長は「(評価期間は)2023年度からが妥当だと思う。5類移行はある程度わかっていたので、準備をどうしてきたのかもわかる。コードシェアと経営統合をどう見るかは、競争を阻害するようになっているかで見るべき。競争を促進しないようであれば、緩和しなければならない。経営統合も形を見るだけではなく、競争制限があるかで評価すべきだと思う」と述べ、議論をまとめた。次回の会合は6月26日に開かれる。
Tadayuki YOSHIKAWA