腕力は不要、しかも丸一日つづけても全然平気! 楽にできて腰を傷めない介助「5つのポイント」
医科大学、大学病院でも採用された日本の画期的な介助技術が、いま海外から注目を集めている。力がいらず腰にもやさしい、というのがその理由だ。技術を身に付け5つのポイントをふまえて介助すれば、丸一日にわたって介助を続けても体はまったく平気だという。『写真と動画でわかる! 埼玉医大式力がいらない介助技術大全』著者の根津良幸氏が解説する。
「奇跡だ!」外国人を驚かせた介助技術
2022年から23年にかけて、本書で解説する介助技術を、モナコ、ドバイ、そしてサウジアラビアで紹介する機会に恵まれました。 モナコでは、私よりゆうに頭2つは大きい、身長2メートル超の男性を要介護者のモデルとして、私が介助動作を実演しました。見ていた人はきっと「本当にこんな大男を動かせるのか?」と半信半疑だったでしょう。ところが、私がモデルを軽々とベッドから起こして見せたので、「Miracle! (奇跡だ! )」と驚きの声が上がりました。 自分よりはるかに体格のいい大男を動かすことができたのは、私が力持ちだからでしょうか? とんでもありません。私は39歳のときに脳梗塞にかかり、左半身に麻痺(まひ)が残りました。その後も別の病に見舞われ、右大胸筋を移植する手術など過酷な治療を経験しています。 見た目は普通に話し、歩き、生活していますが、病気や治療の影響で、およそ腕力とは縁遠くなりました。たとえば、両手にはもうほとんど握力が残っていません。しかし、それほど非力でも、ポイントを理解して行えば身体介助は可能です。腕力に頼る必要など、まったくないのです。
丸一日にわたって実演しても腰はぜんぜん大丈夫
現在、私は医療や福祉の仕事に従事する方々をおもな対象として介助の技術を教える仕事をしていますが、私が教えているのは、私と同じくらい非力な人でもできる、余計な力がいらない身体介助です。 力がいらない、ということは、体を(とくに腰を)痛めにくいということでもあります。力まかせの介助は腰痛の原因になります。ですが、私が開発した介助法を正しく行えば、腰にかかる負担はほとんどなくなります。実際、私はこれまで研修などで繰り返し介助動作を披露してきましたし、ほとんど丸一日にわたって実演したことも何度もありますが、腰痛になったことは一度もありません。 腰痛は、どんな業種でも最も起こりやすいケガですが、厚生労働省の調査によると医療・介護などを含む「保健衛生業」でとくに発生しやすいことがわかっています。腰痛が起こりやすい理由、そのおもな原因が身体介助にあることは間違いありません。 従来の介助で、なぜこれほどケガが起きやすいのか。それは、これまでの方法が力まかせのパワー介護だったからです。パワー介護の問題点について、埼玉医科大学・総看護部長の武藤光代先生は次のように述べています。 *****(以下、引用)***** 看護という仕事の基礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールは、看護師と見習い生たちに宛てた手紙のなかで次のように書いています。 「看護は犠牲行為であってはなりません。人生の最高の喜びのひとつであるべきです」 看護、そして介護は、患者さんや利用者さんの人生を健康面から支えながら、自己成長できる素晴らしい仕事です。しかし、同時に従事者が身体を痛めやすい、危険な仕事でもあります。たとえば腰痛に苦しみ、それでもなお「患者さんのため」と無理をして仕事に向かい、ついには身体を壊して離職を余儀なくされる、そんな悲劇が今でも後を絶たないのは、実に残念なことです。 日常生活動作の介助で腰を痛めるのは、力に頼るパワー介助が原因です。パワー介助は、患者さんにも苦痛を与え、私たち従事者の身体にも害を及ぼします。看護・介護には腰痛がつきものであるかのように言われてきましたが、この現状は是非とも変える必要があります。 『写真と動画でわかる! 埼玉医大式 力がいらない介助技術大全』より *****(引用おわり)*****