石破政権はアベノミクスをどう評価したか(衆院代表質問)
岸田政権の経済政策継承は、事実上アベノミクスから距離を置くことも意味するか
野田代表は、アベノミクスの下で異例の金融緩和が財政規律を損ない、財政環境の悪化を助長するなどの弊害をもたらした、と考えている。これは、石破首相が8月に発刊した著書の中で述べていることとほぼ同じだ。アベノミクスや金融緩和についての両者の考えはかなり近いのである。 ところが、国会の場で両者が対峙すると、野田代表はアベノミクス批判、石破首相はアベノミクス擁護的な発言へと分かれてしまう。首相となった石破氏は、自民党の過去の政策についても擁護することが求められるのだろう。この点は、金融政策の正常化を進めながらも、黒田前体制の下で進められた異例の金融緩和について明確な批判を避けている、植田日銀総裁の姿勢とも似ている。石破首相が自民党内での非主流派であった際の発言が、首相となった際の発言と異なるのは仕方がないかもしれない。また、党内で依然影響力を持つ、かつての最大派閥である旧安倍派の協力を得るためには、アベノミクス批判は避ける必要があるということかもしれない。 石破政権は、岸田政権の経済政策を引き継ぐと明言した。岸田政権は、アベノミクスの評価を避けつつ、アベノミクスのもとで実現できなかったこと、あるいはその弊害として現れたことへの対応を進めようとした。それが、賃上げであり、格差縮小であっただろう。石破政権が、岸田政権の経済政策を引き継ぐと明言したことは、アベノミクスとは距離を置く姿勢を滲ませるものでもあるのではないか。 ただし、今月の衆院選挙、あるいは来年の参院選挙で石破政権の政治基盤が強化された場合には、総裁選で掲げてきたアベノミクスの功罪の検証を行い、正常化に向けた日本銀行の金融政策の自由度の確保と財政健全化の方向を明確に確認することを是非実施して欲しい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英