【解説】“最低賃金1500円”めぐり「払えない企業は駄目」「物事自体が矛盾している」経済界の異なる意見を読み解く
■「物事自体が矛盾している」日商・小林会頭は中小企業の支払い能力を考慮すべきと慎重姿勢
一方、最低賃金の引き上げをめぐり、新浪氏とは違った目線から声を上げたのが、中小企業の多くが加盟する経済団体、日本商工会議所会頭の小林健氏だ。小林氏は17日、最低賃金1500円引き上げという各党の公約について、地方の中小企業の賃上げを重視する姿勢は歓迎するとしながらも、企業の支払い能力をよく考えた上で行うべきだと慎重な姿勢を示した。 小林氏によると、地方の中小企業には最低賃金でしか人を雇えない企業も多いという。また、最低賃金が大幅に上がると、より少ない労働時間で、いわゆる“年収の壁”を超えてしまうことから、労働時間自体を減らす従業員が増えるとの指摘もある。 そうなれば、企業は人手不足になり、やがて倒産に追い込まれる中小企業が出てきかねない。地方では中小企業がインフラを担っていることが多いため、倒産が増えると、インフラの担い手が減り、地方社会そのものが瓦解(がかい)してしまう危機に陥る。 小林氏は、こうした状況になれば「各党が掲げている地方創生、地方で二極化した下の部分を支えるということに、物事自体が矛盾している」と苦言を呈した。
■政党は選挙後も「最低賃金の引き上げ」を真に実現できる政策を
小林氏のこうした主張は、経済的に困窮していて、今も物価高や人手不足に苦しむ中小企業の経営者や、地方で暮らす人々の生活を守ることに重きを置いたものだと捉えられる。「人々の生活水準を上げること」と「人々の生活を守ること」、経済界をけん引する2つの経済団体トップが、それぞれの視点で最低賃金の引き上げを論ずる姿は、これが今後の日本を左右する極めて重要な問題であり、真剣に考えている姿勢の表れであると感じる。 衆議院議員選挙まで、あと1週間余り。各政党には最低賃金の引き上げを、有権者に聞こえのいい“票集めの材料”にだけするのではなく、どのようにすれば中小企業の賃上げ負担を減らせるか、そして地方経済を活性化させていけるのか、選挙後こそ実行に移す姿勢を望む。 (経済部・城間将太)