【ネタバレレビュー】すべてをエグる球体、閉鎖的な町…「七夕の国」初回から3話まで、怒涛の“謎”が押し寄せる!
「寄生獣」や「ヒストリエ」などで知られる岩明均の名作コミック「七夕の国」が、「ガンニバル」などの話題作を手掛けるディズニープラス「スター」にて実写ドラマ化され、独占配信がスタートした。壮大なスケールと刺激的な表現から“映像化困難”と言われ続けてきた本作に、ドラマ「ドラゴン桜」、大河ドラマ「どうする家康」など話題作への出演で躍進を続ける細田佳央太を筆頭に、藤野涼子、上杉柊平など新進気鋭の俳優たちのほか、物語のキーマン役で山田孝之など、豪華キャストが集結した。 【写真を見る】巨大な黒い球体が突如現れ、「パン!」という音と共に、講演中の参議院議員の上半身をえぐっていく…! MOVIE WALKER PRESSでは、本作に散りばめられた“謎”を徹底考察するレビュー連載をお届け。本稿では、一挙配信となった第1話から第3話を、ライターのイソガイマサトがレビューする。 ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■衝撃的な現象もしっかり見せる…配信ドラマだからできるインパクト 「ちょわああああ」という大声と共に、あらゆる物に小さな穴をあける。なんの役にも立たない特殊能力を持った大学4年生、通称ナン丸の南丸洋二(細田)。大学の「新技能開拓研究会」の部長でもある彼は、失踪した丸神教授(三上博史)を捜しに丸神ゼミの講師・江見(木竜麻生)やゼミ生の桜木(西畑澪花)、多賀谷(濱田龍臣)らと、自らのルーツの地でもある東北の閉鎖的な村、“丸神の里”こと丸川町に足を踏み入れる。一見のどかな町だが、建設会社の社長(柳憂怜)が上半身を丸くえぐられて殺害される怪事件が起きていた…。 全10話からなる本作は、岩明均の同名の原作コミックに忠実に、そんな、ナン丸のなに気ない日常がゆっくり不穏な空気を帯びるところから幕を開ける。 第1話ではナン丸の役に立たない能力を何度となく紹介しながら、失踪した丸神教授が“丸神の里”と呼ばれる丸川町を訪れた理由と、教授の失踪が、彼がナン丸のものよりも強大な破壊力を持つ特殊な能力を開花させたことと関係があるのではないかということを示唆。 「新技能開拓研究会」の活動を「時間の無駄」と言って退部した浅野(倉悠貴)が怪しげな「新技能啓発セミナー」に入会する伏線を巧妙に張り、建設会社社長の上半身が「パンッ」という乾いた音と共に消えてなくなる衝撃的な現象もしっかり見せる周到な導入部になっていた。 ■謎が謎を呼ぶ物語の世界観へ迷い込む…“丸神の里”に突入 物語が大きく動きだすのは、ナン丸たちが“丸神の里”と呼ばれる丸川町の謎に迫る第2話だ。現地の郷土資料館に展示された戦国武将の鎧には、丸神教授が特殊能力でコップにあけたものと同じ丸い穴があいていたが、学芸員は「教授は来ていない」と答え、町民も誰1人として教授の姿を見たことがないと言う。 しかも、時期外れの6月に七夕まつりを運営する地元の有力者たちはナン丸の「南丸」という姓を聞いた途端に空々しい態度を一変させ、笑顔で歓迎会を開いてくれたものの、なにかを隠しているのは明らか。「丸神山の山頂で行われる神事には一般の人は立ち入り禁止」と厳しくクギをさす彼らはどこか恐ろしく、その閉塞した空気は、同じ閉ざされた村の狂気を描いた「ガンニバル」を想起させる。 さらに、ナン丸が「ガッピ―ン」という持ち前の直感で自分と同じような血筋を持っていると確信する地元の女性・東丸幸子(藤野)が、彼に「この町では古くから2種類の素質を持った人が生まれます。一つは“手がとどく者”。もう一つは“窓を開いた者”。“手がとどく者”は、私が知る限り、ナン丸さんを入れて6人…いや、5人だけです」とよくわからないことを言い、町に帰ってきた彼女の兄・高志(上杉)がナン丸と同列の力で絡んできたチンピラの足を一瞬にして切断。 忠告を破り、丸神山に登った江見と多賀谷は男たちが松明を地面に叩きつける奇祭の中心にいた白頭巾の人物が「パァァーン」という音と共に閃光を放つ瞬間を目撃。山頂にあった7つの石が6つになっていたことも確認する…と、いささかあらすじ紹介みたいになったが、ここまでは実際、謎が謎を呼ぶ本作の世界観のベース作りと言ってもいいだろう。 ■登場人物のキャラはより立体的に、闇の魅力はより奥深く…物語が加速する! それは第3話に入ってからも同じで、ナン丸が大学にやってきた高志の手引きで持てる能力をいよいよ自分のものに。その一部始終を「新技能開拓研究会」の部員・亜紀(鳴海唯)が目撃する原作にはないシチュエ―ションを取り入れているのも見逃せないが、時を同じくして、講演中の参議院議員の上半身が突如現れた巨大な球体によって上半身をえぐられ、即死する怪事件が勃発。丸川町には丸神教授や高志、幸子の大叔父(伊武雅刀)など“手がとどく者”を探す不審な人物が暗躍し、物語がいよいよ加速し始めるのだ。 就職も決まらないのに、のほほ~んとしていたナン丸も、自らの特殊能力に目覚め、“丸神の里”の謎に巻き込まれるうちにキリッとした表情になっていく。そんな彼の変化を細田が繊細に体現し、藤野と上杉が“窓を開いた者”でもある幸子の慄きと苦悩、強大な力を暴走させる高志の邪悪な心を演じ分けるなど、登場人物たちのキャラも立体的になり、ミステリアスな本作の闇の魅力がより奥深いものになる。 ■気になる謎が次々と出てくる!伏線回収が楽しみ だが、この3話まではまだまだ壮大なプロローグ!丸神教授はなぜ失踪したのか?丸神の里で起こった残虐な殺人事件の犯人と凶行に及んだ理由は?ナン丸や高志と同じ特殊な能力を持った、ほかの“手がとどく者”は誰なのか?幸子が毎夜悪夢にうなされる“窓を開いた者”の能力はどんなものなのか? 丸川町の人々がひた隠しにする、七夕のまつりにまつわる“丸神の里”の秘密とは?丸神山の山頂にあった石の一つが消えたのはなにを意味するのか?高志はなにを企み、“丸神の里”で不穏な動き見せる者たちはなにをしようとしているのか? そして、江見たちが丸神山の山頂で見た、白い閃光を発した白い頭巾を被った謎の男の正体は?今後のエピソードで、その謎の男を演じた山田はどんな怪演を見せるのか?などなど謎は深まるばかりだが、別の言い方をするなら、その掻き立てられた興味と興奮はジェットコースターの最高地点にまで達したようなもので、ここからいっきに急降下して謎の一つ一つが解明されていくに違いない。 いや、まだまだ新たな謎が生まれたり、とんでもない新キャラも登場するかもしれない。いずれにしても、謎や伏線が次々に回収される第4話から本作は俄然おもしろくなるはずだ。そのおもしろさを満喫したいなら、第3話までに散りばめられた謎の一つ一つをちゃんと押さえておきたい。 文/イソガイマサト