29歳で星になった棋士の人生に「近づき、ぶつかっていった」松山ケンイチ
「役作り」という言葉は曖昧だ。人によって演じるキャラクターへのアプローチ方法は違うし、あえて“作らない”という手法をとる人もいる。そんな中、松山ケンイチは、徹底的に役を作っていくタイプの俳優のように思われる。映画『聖の青春』で彼が演じた棋士・村山聖(さとし)は、29歳の若さでこの世を去るまで、ただひたすら将棋界でトップをとるために、全力で命の炎を燃やし続けた。「覚悟がなければできない役」と自らに言い聞かせて作品に臨んだ松山。その向き合い方には彼の人生観がにじみ出ているように感じられる。
覚悟を持って演じる役に挑みたかった
松山は、大崎善生による同名ノンフィクション小説を読み、実写映画化されるなら「ぜひ村山聖さんは自分が演じたい」と強く思ったという。 その理由を「自分の人生を全うしようと、命を燃やして生きている姿を見ていいなって思ったんです」と語るとともに「自分とは全くかけ離れた人間だったので、自分自身に寄せていくよりは、村山さんに近づいていかないといけない。しかも相当な覚悟を持たないと到達できない。自分も30代になったところで、そういう役にぶつかっていきたいという思いがあった」と俳優として高いハードルに挑むことを欲していたと明かす。 実際、松山はさまざまな方向から村山聖という人物へのアプローチを試みる。 「プロ棋士として将棋のさし方や手つきはもちろん、人生をかけて将棋をさすというのはどういうことなのか、将棋会館に行ってプロ棋士の佇まいを研究しました」 また、一部報道でも話題になったが、大幅に増量して、外見的に村山さんに寄せていくアプローチ方法や、病と向き合う心も深く考えたという。 「僕自身が演じているので、自分の中で使えるものは使ってやっていたのですが、村山さんという人物は、今まで自分が考えてこなかったものがとても多かった。これまでのキャリアの中で、一番長い時間をかけて役を作ったし、スタートに立つのも一番時間がかかった役でした」