ダイハツの井上新社長「我々のものづくりはトヨタとは違う」
3月にダイハツ工業の社長に就任したトヨタ自動車出身の井上雅宏氏へのインタビュー。前編の『認証不正問題のダイハツ、井上新社長「縦割りの風土を変える」』(下の関連記事参照)に続く今回の後編では、今後の事業展開を聞いた。認証不正問題を受け、トヨタが開発や新車の認証取得に責任を持つ体制に変更するなど“トヨタ化”する一方で、井上社長は「ダイハツのものづくりはトヨタとは違う」と小型車の開発に独自の強みがあると強調。将来的に南米やアフリカで小型車を生産することを検討していることも表明した。実家の商売の関係で、軽自動車で顧客への配送などを手伝っていたという井上社長は、ダイハツの軽自動車にも親近感を持っていたという。トヨタ入社後、半分以上を新興国など海外で過ごしており、新興国戦略を重点的に語った。 【関連画像】ダイハツがトヨタに供給する小型車「ライズ」(写真:トヨタ自動車提供) 中国勢が東南アジアに進出している。インドネシア、マレーシアで強いダイハツは今後どうするのか。 井上雅宏・ダイハツ工業社長(以下、井上氏):今回の認証不正問題があった際に一度海外の工場を止めたが、出荷を再開した国も多い。ほぼ元の状態に戻っている。マレーシアは経済環境がいいので、生産・販売台数は好調だ。一方、インドネシアは経済状況が厳しくなっており、生産・販売の伸びが鈍化している。 インドネシア、マレーシアはダイハツとトヨタが50年ほど前から開拓してきた市場だ。その国が発展し、自動車市場も大きくなった。そこに韓国、中国勢が進出を狙っている。競争は厳しいが、競争自体は悪いことではない。その国にとっては自動車産業が発展すればいいと思うので、ダイハツ単独ではなく、ダイハツとトヨタの強み、弱みを合わせて戦うつもりだ。 特に電動化の領域。EV(電気自動車)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の供給に対する各国政府の要請は非常に強い。これにすべて対応できるかというと簡単ではない。トヨタとダイハツの技術を組み合わせて対処したい。 新興国は東南アジアだけではない。ダイハツの良品廉価なものづくりは、新興国に対してど真ん中のストライクゾーンに剛速球を投げられるほどマッチングしている。短期的には難しいが、10年、20年、30年先を考えたとき、新興国で新車や保有台数が増えていくのは、誰も疑いようがない。 そこでカーボンニュートラルな車、脱炭素に近い車を出すには、トヨタ、ダイハツの力があれば、いい貢献ができるのではないか。次の一手を考える際、新興国になるので、ダイハツのポテンシャルを使わないともったいないと思う。 具体的な国はあるのか? 井上氏:世界を見たとき、東南アジアはかなり飽和している。(車の供給)スペースがあるのは、南米とアフリカだ。排気量660cc以下の日本の軽自動車規格は、山や坂が多いと無理だが、特に1200~1500cc前後の小型車は需要がある。例えば、アフリカは、欧州のように街の道が狭い。南米、アフリカはカトリックの国も多く、教会を起点として放射線状に広がるという街のつくりが多い。(そうした街では)小型車がど真ん中だ。 良品廉価な車の供給があれば、現地の人たちがグローバルにあった車を製造し、そこで雇用が生まれ、循環していく。ほとんどの国が(そうしたいと)思っているので、そこにストライクゾーンがあると思う。 車を造る場合、現地の部品を組み立てて製造すると2~3年で工場はできるが、自動車をきっちり造ろうと思えば、10年ほどかかる。サプライヤーも必要だ。だから10年、20年、30年単位の仕事になる。