ダイハツの井上新社長「我々のものづくりはトヨタとは違う」
軽自動車のノウハウを強みに
トヨタと協業などを議論する中で、トヨタはダイハツの何を評価しているか。何が良品廉価につながっていると考えているか。 井上氏:簡単に言えば、コンパクトカーなどの「Bセグメント」車だ。「ライズ」「ロッキー」「ヤリスクロス」などがある。トヨタが「タンドラ」「レクサス」「カムリ」から造り、「カローラ」まではCセグメントだ。その下のBセグメントの車はCセグメントからの部品、ものづくりを主に転用する。 一方、ダイハツは軽自動車から造っている。先週、日本で売っている軽自動車すべてに乗ったが、驚くべき軽やかさだった。車に必要な機能がついているのに、軽やかに走る。660cc級のエンジンでこれだけ走るのか、と。ダイハツは安い軽自動車からBセグメントのような上の領域の車を造るが、トヨタはCセグメントから下のBセグメントの車を造る。ここがトヨタとダイハツの違いだ。 例えば、ハンドル関連のパワーステアリング。ダイハツは軽自動車用のパワステから大きくして小型車に搭載する。トヨタは逆を考える。出来上がったものは、かなり違ったものになる。一つの部品が1000円、2000円でも、それが多くの部品を集めて2万円違うと、2万円で台数が200万台あると、400億円になる。それだけ収益へのインパクトが違う。 だから、トヨタとダイハツのものづくりは違う。ちょうど(大きさで)真ん中の車、軽自動車よりも上の車だ。その部分は、ダイハツのものづくりや部品をうまく使うことによって良品廉価なものづくりにつながる。 短期開発が認証不正の原因になる一方、調達や生産の改革が複合的に絡んで不正が起きた。ダイハツの良さを維持しながら、どう車づくりをしていくのか。 井上氏:ダイハツの「ミライース」などの短期開発はダイハツのサクセスモデルであり、速い回転でいい商品を出すことができていた。その強さを失ってはいけない。ただ、モデル数が増え、軽自動車だけでなく、小型車も造るようになった。 仕向け先もマレーシア、インドネシア以外にベトナム、タイ、フィリピン、チリなどと増えていった。そうすると、車を製造する前に試作車を造り、衝突実験をして認証する工程が遅れると、どうにもならなくなる。それが今回の不正問題が起こる原因の1つになった。 再発防止を優先するため、短期開発の生産体制にすぐ戻すことはできないが、やるべきことは良品廉価な車を造ることだ。超短期開発は諦めざるを得ないが、そこそこの短期開発をし、いいものづくりをしっかりする。部品単位で競争力があれば、それが車になったときの競争力はある。ここを失わずにやっていく。ここが最も大事だ。これが新興国のストライクゾーンにボールを投げられる決め手になる。 国内市場について。良品廉価なものづくり以外にも顧客や地域との接点拡大に重点を置いた「コトづくり」にも力を入れてきたが、今後どうなるのか。 井上氏:日本の新車市場において、軽自動車市場は最近年185万台ほどで推移している。以前年200万台を超える時期もあったが、年185万前後でほぼ落ち着いている。そのうち、ダイハツは年65万台ほどを販売してきた。 我々が年65万台をキープするのは相当な努力がいる。しかし、全体の年185万台は減らないと思っている。増えないけど、減りもしない。毎年、年65万台の新車を提供するペースを守るよう努力したい。 中長期で少子高齢化が進むと、軽自動車や小型車の販売数は減ると思う。そうなったとき、自分も含めた高齢者の移動はどうするのか。バスやタクシーになるだろうが、30年後の世界はおそらく無人の巡回バスや小型モビリティーで近くの公民館へ行くという世界になる。 そのときに力を発揮するのが、販売店のネットワークだ。「全国津々浦々」と言葉で言うが、そんな言葉で片付けたくないほど、小さな街にもダイハツの販売店がある。これは、郵便局のようなインフラになるかもしれない。そこはモビリティーのコト、サービスの提供拠点として使える。 採算が合わないと、(店舗の維持は)難しいところもあるが、ここから20年、30年後にシニアがアクティブになっていくのは間違いない。現場に近い目で、どのようなニーズがあるか、しっかり見極めればコト、すなわちサービスをしっかり提供することもできる。それが日本における、ダイハツを含めた自動車産業の生きる道だ。我々が存在する意味にもなる。
小原 擁