介護できょうだい仲が悪くなるのはなぜか…トラブルの原因は?【介護の不安は解消できる】
親の介護がきっかけで、きょうだい仲が険悪に──。そんな話を耳にしたことはありませんか。 幻視、幻覚、被害妄想があった母を遠距離からどう支援したのか いまだに“介護は長男が担うもの”といったイメージが根付いているご家族は多く、介護が長男一家に全集中しているケースは少なくありません。実際、2015年に長崎大学が行ったアンケート調査によると、全体の2割は「ほかに介護に協力してくれる人がいない」と回答しています。 トラブルの原因は、相続や介護費用などさまざまですが、中でも多いのが「治療」の問題です。 以前、遠方に住む女性から「母がそちらで認知症の薬を処方されたそうなのですが、どういった経緯で認知症と診断したのでしょうか」と、一本の電話が入りました。そこで、「画像検査で脳の萎縮が見つかり、物忘れを自覚されていたため治療を始めましたが、治療に不安があるのであれば、一度詳しく話をしたい」と伝えると、「治療は兄に任せているので……」とのことでした。 残念ながら、現代の医療では認知症を完治させる治療薬はなく、あくまでも本人がその人らしく暮らせるよう手助けする方法のひとつでしかありません。残存する認知機能をできるだけ長く保つには、薬での治療が検討されますが、介護や治療を担当しているご家族が、遠方に暮らすきょうだいに本人の状況を伝えても「認知症の薬を飲み始めた」といった端的な情報しか行き渡らない。そうすると、治療に関する理解が遅れたり、「ほかにも何か隠されているのではないか」と不信感が募ってきょうだい間のトラブルに発展しかねないのです。 ですから当院を受診されたご家族に対しては、必ず①きょうだいはいるか②ほかのきょうだいは親が認知症の疑いで病院に来たことを知っているか──を聞き取り、「伝えていない」という場合には、治療の開始を踏みとどまるようにしています。 認知症の治療は、認知機能が保たれているがんなどの病気と違い、家族の意向が尊重されやすい。介護できょうだい仲を悪化させないためにも、日頃から親と積極的に関わり、小さな変化を見逃さないようにしてください。万が一に備えて、定期的にきょうだいで「介護のキーパーソンは誰が担うか」「施設を検討するタイミング」といった介護方針をまとめておくといいでしょう。 ▽内野勝行(うちの・かつゆき) 帝京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部付属病院神経内科非常勤医などを経て、金町駅前脳神経内科院長。厚生労働省認定認知症サポート医、緩和ケア認定医。著書に「記憶力アップ×集中力アップ×認知症予防 1日1杯 脳のおそうじスープ」がある。