「歴史に名を残した女性」は何がすごかったのか? 20人の人生から学ぶ、いまを生きるヒント
新年度となり、110作目のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の放映が始まった。日本初の女性弁護士・三淵嘉子(みぶち・よしこ)氏をモデルとした本作は評判も上々だ。 【書影】『「烈女」の一生』小学館 1870円(税込) 歴史に名を残す活躍をした女性はほかにも多くいる。ナイチンゲールにマリー・キュリー、ムーミンを生み出したトーベ・ヤンソンなど。 そんな「烈女」たちの人生を、絶妙な筆致で描き出したのが『「烈女」の一生』だ。三淵氏と同時代である19世紀後半から20世紀にかけて活躍した20人の女性たちの人生について、著者のはらだ有彩さんにお聞きした。 * * * ――歴史的人物を取り上げて、その人生について書かれていますが、伝記というよりもエッセイのような読み口でした。 はらだ 私としても、この本は伝記ではないと思っています。 ――というと? はらだ 歴史上の人物について、つい「完璧に正しい、信用できる歴史的事実がある」と思ってしまいます。だけどその歴史を、正しいものとして残そうと取り決めた権力があるかもしれない。一方で、自伝もまた要注意で、本人が言いたくないことや伏せたいことは書いてない。 だから私は、「その人のことは本当にはわからない」という前提で、「この人が書き残しているこの気持ち、私にも覚えがあるかも」と感じられるものを書きたいと思ったんです。その人が経験したことを知るほどに、自分の経験を重ね合わせてしまうような。 もちろん、その人の感情と人生はその人のもので、誰かの感情に辻褄(つじつま)を合わせたりするものではないのですが、つい「私もそうかもしれない」と言いたくなる。そう思いながら書いたので、伝記の中の感情の痕跡に、自身と通ずる感情を探すためのエッセイだと思ってもらえるとうれしいです。 ――それでも、できるだけ客観的であろうと注意している印象がありました。 はらだ 他者に対して、絶対的に客観的でいることって難しいと思います。 カミーユ・クローデルというフランスの彫刻家がいるんですけど、かつては、(「地獄の門」の一部の)「考える人」などの彫刻で有名な彫刻家オーギュスト・ロダンの愛人とされていました。しかし、研究が進んだ結果、再評価され、今では共同制作者とされているんです。 カミーユが避暑地の城から、パリにいるオーギュストに出した手紙が残っていて。そこには「パリで水着を買ってきて」と書いてあるんですけど、その手紙について「男性に対して冷淡にイニシアチブを取っている」という解釈もあれば、「媚を売って男性の気を引こうとしている」という解釈もあります。 第三者が感情を排して書くと、それが客観的事実のように見える。でも、本当のことはわかりませんよね。他者について語るとき、私たちは勝手に出来事の余白を想像で埋めてしまうことがある。 なので、今回の本を書くときには「勝手にその人をかわいそうな存在として消費しない」ことに気をつけていました。 ――「勝手にその人をかわいそうな存在として消費しない」というのはどういうことでしょうか? はらだ 歴史上の女性を語る上では、歴史的背景や当時のジェンダー観、権力勾配を必ず踏まえる必要があります。 今回の本で取り上げた20人にも「女性であること」によって、人生を制限された人がいる。でも、「制限されてかわいそうな人生だったね」と消費するのは、その人の人生を矮小化(わいしょうか)しすぎている。 かといって「苦境の中でも強くしなやかに生きた女性がいる」で片づけると、権力勾配から目をそらす言い訳にしかならない。 なので、今回の本では社会的な状況による苦境に対して、彼女たち自身がどう感じたのかに焦点を当てることを意識しました。