「歴史に名を残した女性」は何がすごかったのか? 20人の人生から学ぶ、いまを生きるヒント
――今回の本の20人はどのように選ばれたのでしょうか。 はらだ まず、19世紀の終わりから、20世紀の半ば過ぎまでの女性を中心に、なるべく世界各地から取り上げました。 この時期は、フェミニズムの第1波(男性と同等の市民権獲得を求める)、第2波(性差を根拠とする差別全般の変革を求める)と呼ばれる運動が起きていた時代です。 現在、世界で起きているフェミニズム運動は第4波だといわれています。この第4波は「#MeToo運動」に見られるようにオンラインで遠くの人とも連帯する活動が特徴的です。 今日、フェミニズムは社会的に広く認識され、実際に社会の変化を引き起こしていると思うのですが、このようなムーブメントは今、突然現れたわけではありません。 さまざまな運動や思想が連綿と続いた結果として今に至っている。私が取り上げた20人は過去の時代の人ですが、われわれはそこから地続きの現代を生きているんです。 ――なるほど。ですが、取り上げられた人物がフェミニズム運動家というわけでもないですね。 はらだ そうですね。フェミニストだけが「女性」に対する社会の歴史と関わっているわけでは当然ありません。そうではない人も、男性を含むすべての人が、同じ時間の中で生きている。だからこの本はあらゆる人に関係のあるテーマだと思っています。 ――20人の中で、特に印象に残った人物はいますか? はらだ 日本人女性初のオリピックメダリストの人見絹枝(ひとみ・きぬえ)さんですね。 彼女は陸上800mでメダル獲得後、チェコのプラハで行なわれた第3回国際女子競技大会に出場するのですが、必死に努力して、後輩もサポートして、個人総合記録2位という結果を出すも、優勝ではない結果に日本の世論は落胆し、彼女を非難しました。 そのことに対して、人見さんは『スパイクの跡/ゴールに入る』という自伝の中で、その非難がすごくイヤだったと書き残しているんです。 まず「そんな感情、書き残してくれるんだ!」ってうれしかったですし、私はその「イヤだ」という気持ちこそが一番大切だと思ったんです。 「イヤだ」って感情は、その人の置かれている状況への最初の反撃だとも言えます。「イヤだ」と思った時点で自分と社会との間に摩擦が起きていて、それは心が抵抗している証左。人見さんがそれをはっきりと自分の言葉で書いていたのが印象的でした。 誰しも社会や環境に「イヤだ」と感じることがあって、それは歴史上の人物も一緒で、時代を超えて「イヤだ」を共有できることがある。そうすることで、自分が今、抱いているモヤモヤへの理解が少し深まることもあると思うんです。 ●はらだ有彩(はらだ・ありさ)関西出身。テキスト、イラストレーション、テキスタイルをつくる"テキストレーター"。著書に『日本のヤバい女の子』シリーズ(柏書房/角川文庫)、『百女百様 街で見かけた女性たち』(内外出版社)、『女ともだち ガール・ミーツ・ガールから始まる物語』(大和書房)、『ダメじゃないんじゃないんじゃない』(KADOKAWA)。雑誌・ウェブメディアなどでエッセイ、小説を執筆している ■『「烈女」の一生』小学館 1870円(税込)歴史に名を刻んだ女性、そんな「烈女」たちは、その生の中で何を思い、行動したのか。性別、人種、文化、階級――。数々のスティグマの中にあった20人の人生を、『日本のヤバい女の子』シリーズなどで注目を集める気鋭の著者が独自の視点でひもとく。ピックアップされたのは19世紀から20世紀に活躍した女性が中心だが、決して遠い時代の話ではない。今を生きる私たちに強いメッセージと気づきを与えてくれる一冊だ 取材・文/室越龍之介 写真/戸間正隆