「40代の地方生活」「地元でプチ移住」 泊まって分かる田舎暮らしのリアル
対して、平屋建てで気密性の高い「ノマドワーカーの家」は、理想的に映る。おもに生活の場になっているオープンなリビングと、パソコンに向かって集中して仕事をするのにピッタリな屋根裏部屋(ロフト)という間取りも、自分のニーズに合っていそうだ。とはいえ、この家での「ノマドワーカーな暮らし」が、本当に理想的かどうかは、コンセプトを頭で理解しただけでは十分に判断できないかもしれない。僕の「山奥の別荘」に比べれば間違いなくはるかに便利だとは思う。しかし、もし、僕がまだ東京を拠点にしていてゼロからこの地に移住することを考えるとすれば、「東京の事務所のように目の前にコンビニがあるわけではない立地は、仕事をしながら住む家としてどうなのか?」「新幹線を使ってもドアtoドアで2時間弱という東京のクライアントとの距離感が、仕事上どう影響するか?」「ロフトスペースの仕事部屋は息苦しくないか」……。そういうことが次々と頭をよぎるだろう。 こうした細々としたリアルな部分では、どうしても理屈よりも肌感覚が優先する。だから、たとえ1泊でも実際にそこに「住む」ことで、自分が目指したスタイルの田舎暮らしが「想像と違っていた」という後悔に結びつくリスクが軽減すると思う。大きな後悔は、案外小さなことの積み重ねである場合が多いからだ。
“プチ移住”目指す地元の若い世代も
『class vesso』は、住宅展示場でもなく、貸し別荘でもなく、「田舎暮らし」の実現を後押しするコンセプチュアルなビジネスの実験場だと言っていいかもしれない。全体のコンセプトを住宅コンサルタント会社が担当し、6軒の家はそれぞれ別の会社が設計・施工する。移住希望者に土地を斡旋する提携関係にある地元不動産会社もある。つまり、さまざまなパターンの田舎暮らしのコンセプトを提案し、土地の購入から気に入った家を建てる所までワンセットでサポートする体制となっている。 6軒の家では、週末を中心に、移住に向けたよりリアルな部分をサポートする各種セミナーも開催している。お盆期間中の土日には、地元企業と連携した「収納」のセミナーと、フィナンシャル・プランナーによる住宅ローンなどの相談会がそれぞれ無料で開かれた。収納セミナーでは、新しい土地・新しい家で「どんな暮らしをしていきたいのか?」と考えるところから始まり、それに沿って「家を建ててから片付ける」のではなく、「収納を考えて家を建てる」といったことを、収納のプロがレクチャーした。住宅ローンの相談会では、相談者の具体的な希望に対し、どの程度の安定収入があれば住宅ローンが組め、無理なく返済できるかというアドバイスが聞かれた。 この2つのイベントの参加者をはじめ、取材した2日間で出会った見学者・宿泊者は、リタイア後のシニア層よりも、小さな子供がいる若い夫婦や現役の中高年層が目立っていた。また、都会からの移住希望者ばかりでなく、特に若い層では地元の人が目立ったのが少し意外であった。地元の若夫婦のほとんどは、結婚や出産を機にUターンしたり、実家を出て近くに自分たちのライフスタイルに合った家を新築したい、といったケースだ。田舎暮らしというと、都会の人が豊かな自然環境に憧れて移住するイメージが強いが、地方における地域内での生活圏の移動・ライフスタイルの変更といった“プチ移住”も、これからどんどん増えていくであろう。