番記者のちょっといい話 ヤクルト・奥川恭伸が夜空を見上げ前に進んだ日々…奮い立った高津監督からの言葉
(日本生命セ・パ交流戦、オリックス3―4ヤクルト、1回戦、ヤクルト1勝、14日、京セラ)ヤクルト・奥川恭伸投手(23)が808日ぶりに復帰登板。5回7安打1失点と好投し、2021年10月以来の白星を挙げた。 【写真】言葉を交わす奥川と内山の「星稜コンビ」 あのときの奥川はどん底にいた。2022年の故障後はほとんど投げることがかなわず、大好きだった野球を嫌いになりかけていた。何とか気を紛らわそうと、夕食後に一人、車を走らせた。埼玉・戸田寮の門限までのわずかな時間。スターバックスコーヒーに寄り、あてもないドライブで気分転換した。 就寝前。4階の自室を出て、同じ階のバルコニーに向かった。外の空気を吸い、夜空を見上げた。「すぐに治してくれる神様が降りてこないかなと。遠くには東京タワーやスカイツリーが見えた。風景を見ているといろいろ思い出して、また明日から頑張ろうと思えた」。前を向くために大切な時間だった。 右肘の手術を受けるか悩んだ日々。メスを入れないことを決断し、自分の選択を信じて歩んできた。昨年11月。戸田球場に高津監督が訪れた際、コーチ室に呼ばれた。2人きりの時間。「もう一度マウンドで投げている姿を見たい。『奥川で勝った』という試合を1試合でも多く見たい」と強い言葉をもらった。 「泣きそうになりました」。待っていてくれる人がいる。必要としてくれる人がいる。マウンドへの思いがより強くなった。悩み、苦しみ、時に諦めかけそうになっていた姿を見ていたからこそ、記者も胸にこみあげるものがあった。(ヤクルト担当キャップ・赤尾裕希)