中東が戦火拡大の危機にある。侵攻を広げるイスラエルと、敵対するイランをはじめ当事者は立ち止まり、紛争のエスカレートを止めるべく国際社会が結束して手を尽くさねばならない。 　イスラエルが隣国レバノンの南部に地上侵攻した。拠点を置く民兵組織ヒズボラの掃討を掲げ、空爆に続いて攻撃を本格化させた。 　ヒズボラも反撃し、支援するイランはイスラエル内に弾道ミサイルを発射した。4月以来の直接攻撃で、それを上回る180発以上の規模とみられている。 　イスラエルは報復する姿勢だ。昨年10月に始まったパレスチナ自治区ガザの戦火が、地域大国イランも巻き込んで中東全体に及ぶ恐れが強まっている。 　緊迫化は、ガザのイスラム組織ハマスに共闘する親イラン勢力に対し、イスラエルが攻勢を強めたのが直接の引き金だ。 　レバノンを大規模に空爆し、首都ベイルートでヒズボラの指導者ナスララ師を殺害した。既に民間人を含め数百人規模の死者が伝えられ、2006年以来の地上侵攻でさらなる犠牲が懸念される。 　イスラエル軍は、国境付近のヒズボラ施設への「限定的な作戦」とするが、ガザでも同じ説明で侵攻を全域化し、子どもらを含め4万人超が犠牲となっており、額面通りに受け取れない。 　ヒズボラ側は徹底抗戦する構えで、国軍をしのぐ戦力とゲリラ戦法に強みを持つことから戦闘が長期に泥沼化する恐れもある。 　イランの「援護射撃」は、7月に国内でハマス最高指導者ハニヤ氏を暗殺されたのに続き、親イラン勢力の打撃への報復とされる。 　一方でイラン外相は、反撃がなければ「行動を終了する」と表明した。全面衝突を避けたい思惑を伝えたのは重要である。 　イスラエルは応酬を思いとどまるべきだ。自衛権を振りかざすが、レバノンに加えイエメンやシリアにも越境攻撃し、国連が制止を続けるガザ侵攻への国内外の批判をそらす狙いが透ける。他国の主権侵害も民間人の犠牲も顧みぬ蛮行は、国際的な孤立を一層深めよう。 　後ろ盾の米国は自制を求めつつも侵攻拡大を事後承認し、支援を続けている。大統領選への影響を恐れた甘い対応がイスラエルを増長させ、紛争収束への国際連携を妨げている責任は重い。停戦実現へ毅然と影響力を行使すべきだ。 　石破茂新政権は、双方と同盟国の米国に危機回避を主体的に働きかけることが求められる。