【話題の広告】お~いオオタニサン!伊藤園の〈大谷翔平×『お~いお茶』プロモーション戦略〉の“仕掛け”を徹底分析
伊藤園の歴史はまさに「ブランディングの教科書」
伊藤園は、茶製品を主軸とした清涼飲料メーカーです。創業は1966年ですから、約60年で老舗というほどでもないでしょう。特にお茶市場に強いパイプもなく創業した日用品訪問販売の企業が、わずか30年で昔で言う東証二部に上場を果たします。現在は東証プライムに登録されています。 そして、競合はというと、茶葉という観点から考えると、同社と同じ東証プライムに登録された企業としてはほかに例がありません。清涼飲料メーカーまで広げれば、サントリーやコカ・コーラ、キリンビバレッジなどビッグネームが続々登場します。 つまり伊藤園のライバルは超大手飲料メーカーということになります。 しかも伊藤園の主力商品である緑茶系飲料の売り上げに限れば、もう何年も他社の追従を許さないレベルでシェアトップの座を守り続けています。 なぜ、こんなポジションを伊藤園がとれたかと同社の歩みをたどれば、ブランディングの教科書のような事実が続々と出てきます。 ------------------------------------------------- ●緑茶製造販売が主力になると、早々に業種になじむような社名に変更 当初日用品訪問販売の会社だったのを茶葉製造・販売を主軸に方向転換すると、日本茶問屋から称号を買い取り、伊藤園という「製茶業らしい名前」に変更。 ●真空パッケージ入り茶葉や缶入り緑茶系飲料など、「業界初」を次々と発表 茶葉の販売は紙袋入りが一般的だった時代に、香りや風味を損ないにくい真空パッケージで売り出したのも、缶入り緑茶系飲料を売り出したのも、伊藤園が最初。ペットボトル入り緑茶系飲料の発売も世界一速く、ウーロン茶を日本で販売したのも伊藤園が日本初。 ●模倣困難な強みの追及 伊藤園が緑茶系飲料のトップを走り出した、並みいる大手飲料メーカーもその市場に参入。それは予測できていたことだけに、先行の強みを活かし「他が模倣困難な強み」を編み出すことに注力する伊藤園。 国内外に茶葉の大規模な生産農家を育成する計画を開始し、実現。生産者に対しては売買の関係だけではなく、機械化や技術的支援、安定した買取価格の保証等を条件に、『お~いお茶』専用の茶葉栽培の委託にまでこぎつける。 これらが成就するまで10年の年月を要し、遅れてきたメーカーにはなかなか真似のできない強みを、伊藤園は作り上げた。 ●主力の緑茶系飲料は、トップランナーにこだわる 『お~いお茶』は2022年8月に累計販売本数400億本を突破。2000年初頭より、同ブランドは全茶系飲料の販売量ナンバーワンとなる。その他、健康ミネラルむぎ茶が「最も販売されているRTD麦茶ブランド(最新年間販売量)」実績世界No.1としてギネス世界記録に認定。 ●トレーサビリティをはじめ環境問題にも注力し、CSRにも着手 生産農家との契約によって、生産・消費・廃棄までの一連の流れにおいて、「いつ、誰が、どこで」を追跡可能なシステムを確立し、環境問題に取り組むとともに、事故防止にも役立てる。 ●お茶は日本のもの。だから緑茶のトップランナーは日本の伝統芸能を大切にする 伊藤園は、俳句コンテストで有名だが、ほかにも将棋タイトルスポンサーや歌舞伎等の日本の伝統文化伝承にも力を注いでいる(※)。最初のTVCMに起用したのは新国劇の看板役者・島田正吾氏、以後市川團十郎(旧海老蔵)氏などが続く。企業の公式サイトでは、現在はわかりづらい場所に移動してしまったが、長期にわたり「伝統文化の取り組み」というコンテンツでお茶のみならず、俳句・相撲・歌舞伎・囲碁・将棋といった文化を楽しめる。 ※伊藤園HP『伝統文化の取り組み』(https://www.itoen.jp/oiocha/culture/) ------------------------------------------------- 以上、一部ですが、伊藤園の歩みの中で「ブランディングのポイント」のような事例を拾ってみました。 次に伊藤園が目指すものは、「世界」だと言われています。 だからこそ、今、大谷選手なのでしょう。彼との契約は社内でも超秘密裡に行われ、しかも伊藤園側は大谷選手とは直接会わずに締結のサインを交わしたといいます。これこそお互いに信頼している証でしょう。まさにブランドな関係です。 国内では少しずつ、緑茶系飲料の消費量事態が減少傾向にあり、極論すると緑茶系飲料に偏った状態で商戦に立ち向かう伊藤園は、「市場を世界に広げて戦力を増強」という道を選ばざるを得なかったのかもしれません。 ダイエットに注目が集まり、和が好まれる欧米に向けて『お~いお茶』を羽ばたかせる伊藤園。 6月3日、伊藤園は2025年4月期の連結純利益が前期比10%増、海外事業全体の営業利益は前期比31%増だと、それぞれ見込みを発表しました。 さらに、今年2024年に発売35周年を迎える『お~いお茶』の販売地域を世界100以上の国・地域に引き上げるとも発表しています(現在の販売国・地域は40超)。 大谷選手効果で、国外の販売数は順調に伸びているとのことですが、さて、これから先、伊藤園は大谷選手でどのような手を打ってくるのでしょうか? 楽しみです。 江里 洋平 MOPS代表取締役
江里 洋平