「映像化したらさぞや怖いだろうな」山梨県の旧家にある謎の蔵、位牌、不気味な経文…『撮ってはいけない家』を解説!(レビュー)
帯に「怖い」の一六連発という惹句からしていかにも今人気のモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)ホラーっぽいけど、実は真っ当なホラーミステリーの快作である。 映像制作会社のディレクター杉田佑季はモキュメンタリーホラードラマ「赤夜家の凶夢」のロケハンに、オカルトマニアのアシスタントディレクター阿南幹人とともに山梨県北杜市の旧家白土家に向かう。白土家はプロデューサー小隈好生の婚約者紘乃の実家だったが、佑季たちは、その旧家の男子は皆一二歳で命を落とすか、行方不明になるというドラマのモデルが白土家ではないかと疑っていた。小隈には亡き前妻との間に一一歳の息子昂太がいた。昂太は幼時から誰かに食べられる夢など気味の悪い夢を涙とともに見ており、そこがドラマとは違うというが、白土家には秘密が多くありそうだった。 実際、二階に上がらせない蔵があったり、男児の名前が連名で刻まれた位牌が祭壇にあったり、不気味な暗号めいた経文が残されていたり、さらにまた、紘乃の年代ごとの写真に写った犬が全部違っていたり……。 前半から、怖いというより、謎、また謎といった展開のようだけれども、いざ撮影が始まると怪異が起きる。その辺はいかにもモキュメンタリータッチで、映像化したらさぞや怖いだろうなと思わせられるが、大きな謎が一つ明かされる中盤からは子供の失踪事件発生とともに伝奇趣向も加速し始めるのである。 いやそれにしても、端正なヒロインもさることながら、情報収集係の阿南クンのマニアぶりにご注目。その住まいはというと、ワンルームの壁面すべてがオカルト、心霊関係の本、DVD、怪しげな仮面や人形の棚で埋め尽くされ、床にも物が積まれて部屋の中央の座卓スペースから入口までの獣道的な通路以外、足の踏み場が一切ないというありさま! でもいい仕事するんです。終盤のフーダニットのサプライズを見よ! [レビュアー]香山二三郎(コラムニスト) かやま・ふみろう 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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