「クレカタッチ」は交通系ICカードを駆逐してしまうのか 熊本で「全国相互利用」離脱、一方で逆の動きも
パスピー終了の流れをつくったのは、広島市を中心に路面電車やバスを運行する広島電鉄(広電)だ。同社と日本電気(NEC)、レシップの3社はスマートフォンの画面に表示したQRコードを利用する乗車システム「MOBIRY DAYS(モビリーデイズ)」を開発、広電とグループ会社の計4社で9月(一部は先行して7月)から導入する。 モビリーデイズは乗車データなどをクラウド上で処理し、車両に搭載した機器では高速な計算処理を行わない仕組みで、従来のICカードよりもコストダウンが図れるという。スマートフォンを持たない人向けには、同システムで使える新たなカードを用意する。
費用については非公表だが、広電の広報担当者は「ICカードシステムの更新費用がかさむことが新システム導入の狙い」と説明する。具体的に決まった内容はないというものの、割引などのサービスがICカードより設定しやすい柔軟性も導入理由の1つだ。 ただ、完全にICカードが消えるわけではなく、全国交通系ICカードも別の端末を設置して引き続き利用可能だ。また、パスピー終了に伴う新たな決済手段として、モビリーデイズではなくJR西日本のイコカに切り替える事業者も目立つ。QRコード決済の新システムがどこまで拡大するかは未知数だ。
ここまで挙げた事例では、クレカタッチ決済などの新たな決済手段に押されているようにも見える交通系ICカード。だが、実際には全国交通系ICカードのエリアは広がっている。 2024年に入ってからも、これまで独自のICカードのみだった岐阜バス(岐阜県)で、3月から全国交通系ICカードが利用可能に。伊予鉄道(愛媛県)の路面電車も同月から全国交通系ICが使えるようになった。さらに同鉄道は現行の独自カード「ICい~カード」を2025年9月に終了し、全面的にイコカに切り替える予定だ。
また、地域独自のICカードが全国共通型に「進化」するケースもある。2012年に登場し、長野市と周辺市町村のバスで利用できるICカード「KURURU(くるる)」は、2025年春からスイカの機能を備えた新たなカードに切り替わり、導入から10年以上を経て全国交通系IC対応となる。 新しいくるるは、JR東日本などが開発した「地域連携ICカード」を導入する。これはスイカの機能と、地域独自のICカードが備える割引やポイント制度などの機能を1枚にまとめて搭載できるカードだ。2021年以降、JR東日本エリアで14種が発売されている。