アナ、アン、杏…… 今年はなぜか「ア音」が当たる!?
今年前半、やけに目立ったのが「ア音」で始まる歯切れよい名前。3月の公開以来、日本での観客動員数が2000万人に迫る映画『アナと雪の女王』をはじめNHKの朝ドラ『花子とアン』、そしてNHKに民放にとヒット作が続く女優の杏(あん)などなど。「ア音」は、元気を出したい時代の空気にふさわしい。
邦題もメガヒットに貢献? 『アナと雪の女王』
その人気が「社会現象」と報じられた『アナと雪の女王』。ディズニーお家芸のプリンセスストーリーに「自分探し」のスパイスを利かせ、最先端CGによる映像美と華麗な劇中歌で彩る……とくればメガヒットも当然といえそうだが、原題の『Frozen』はふつうの日本人には「???」。アンデルセンの童話「雪の女王」を連想させる親しみやすい邦題が、メガヒットにひと役買っているかもしれない。 邦題はディズニー映画初のWヒロイン、アレンデール王国の王女アナ(Princess Anna of Arendelle)と後に「雪の女王」となる姉のエルサから。「Annaはアナではなくアンナでは?」との指摘もあるが、発音はほとんど「アナ」。原音に揺れのある外国語の日本語表記に厳格な基準はないし、文部科学省も平成3年に「慣用の尊重」を基本にとして「状況に応じて」「取り決めを行わず」「自由」と答申している。つまり、どちらでもよいわけ。 ただし、語呂のよさや「アナ雪」と縮めやすさで選ぶならやはりアナ。人気のファッション&化粧品ブランドANNA SUIは「アナスイ」だし、Annaをアナと呼ぶことに違和感はない。ちなみに、日本語吹替版は姉のエルサが松たか子でアナ役は神田沙也加。名前の「ア列音」含有度が高い2人の歌声は、歯切れよく、力強い。
『赤毛のアン』へのオマージュも随所に 『花子とアン』
スタート以来、視聴率20%超の高値安定を続けるのが『花子とアン』。昨年の『あまちゃん』で全国区となった「じぇじぇじぇ」に続き、今年は甲州弁の「てっ!」が流行語大賞にノミネートされそうだ。劇中にちりばめられた『赤毛のアン』に重なる小ネタも、マニア心をくすぐる。 たとえば、ドラマの主人公はなが「はなでなく、花子と呼んでくりょう」と訴えるシーン。原作では、アン・シャーリーが養母マリラに「アンという名を呼ぶんでしたら、eのついたつづりのアンと呼んでください」と訴える。「そのほうがずっとすてきに見えるのですもの。Annはひどく感じがわるい(dreadful)けれど、Anneのほうはずっと上品(distinguished)に見えるわ」。アンの繊細な言語感覚を象徴する、この場面へのオマージュが前述のシーンというのが定説だ。 たしかにAnneは由緒ある名前で、英王室にも14世紀のリチャード2世妃から「じゃじゃ馬」で名を馳せた王女まで多くのAnneがいる。大修館書店の『ヨーロッパ人名語源事典』によれば、20世紀初頭まで「Annが10人いればAnneは10人に1人」というから、eのつくアンは「選ばれし名前」だった。仏語圏ならアンヌ、独語圏はアンネ。一方、映画『ローマの休日』でヘップバーンが演じた王女はeのつかないAnn。同事典は「庶民的な王女像をつくろうとした作者の意図」と推測している。