【今月行くべき展覧会】モネの光に魅了された「ダニエル・ブラッシュ展 ー モネをめぐる金工芸」
ダニエル・ブラッシュの名を知る人は多くはないはずだ。だが、既存の枠の内に組み込まれることなく、驚くほど精緻な技で、独自の哲学を美に昇華させた唯一無二のその作品には、誰もが圧倒されるであろう。この知られざる巨匠の初の美術展が「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」により、六本木「21_21DESIGN SIGHTギャラリー3」にて幕を開ける 【写真】ダニエル・ブラッシュの作品
ダニエル・ブラッシュとは何者なのか。「彼は金属加工職人であり、宝石職人であると主張しているが、私は何よりも先に、彼の中には一種の魔術師がいると思う。」この展覧会の開催に尽力したひとり、ヴァン クリーフ&アーペルのプレジデント兼CEOニコラ・ボスは作品集『Daniel Brush:Jewels Sculpture』(Rizzoli Electa刊)の序文で、ブラッシュについてそのように記している。さらに付け加えれば、画家、彫刻家でもあり、エンジニアでもあり哲学者でもあり、ジャンルを超えて自らの創作を追究し続けた現代アメリカのアーティストである。
ダニエル・ブラッシュ
1947年米国オハイオ州クリーブランド生まれ。カーネギー工科大学美術学校、南カリフォルニア大学に学び、ジョージタウン大学で芸術哲学を教える。1978年よりニューヨークに移り、ひたすらに制作に打ち込む。2022年没
彼の類まれな作品は、2017年、「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」による展覧会「Cuffs & Necks (カフス&ネックス)」展がパリにて、翌年にはニューヨークでも開催され、2023年は香港にて「DANIEL BRUSH AN EDIFYING JOURNEY(ダニエル・ブラッシュ 啓発の旅)」展として、世界の人々の目に触れるところとなった。 2024年、東京におけるエキシビションでは、ふたつの章を設け、新たなアプローチと構成で、彼の世界と作品が紹介される。
まず第一章として、ジュエリーから芸術作品、オブジェなどが展示され、ブラッシュの幅広い作品に見られる多様な素材や卓越した表現方法に焦点を当てる。 “素材の詩人”とも称されるブラッシュ。そのジュエリーやオブジェには、貴金属のみならず、スチールやアルミニウムが使われ、錬金術にも似たその変容にまず驚かされる。表面の精緻な模様にも注目だ。細かな金の粒子で装飾された《ハンド ピース》には、古代エトルリアの金工芸にそのルーツをさかのぼる「グラニュレーション(粒金細工)」技法が使われ、無数の線が刻まれた《無限のリング》には、時計の文字盤やジュエリーの装飾などに用いられる「ギヨシェ彫り」が施されている。