河口湖畔に響くシンセの音色 日本でただ一人という山頂音楽家とは
夏山シーズンを迎えた富士山の麓、ハーブが咲く河口湖畔の公園でシンセサイザーを奏でている男性の姿が。湖畔を包む癒しの音色に、通りかかった観光客らも足を止めしばし、その音楽に耳を傾ける。男性の名はIZANAGI。日本でただ一人の山頂音楽家だという。
富士山、乗鞍岳、阿蘇山などIZANAGIさんは、日本各地の山を、シンセサイザーを担いで登り、癒しの音を響かせてきた。山でシンセサイザーを奏でるのは、路上ミュージシャンが道行く人に向けて音楽を発信するように、登山者に山頂音楽を発信するためと思いきや、「作曲のためなので人はいない方がいい」とのこと。なるほど、山頂で演奏会を催しているのではなく、雄大な自然に身を置いて作曲活動をしているのだと合点がいく。 その音楽はいずれも、スピリチュアルでヒ―リングなもの。毎年、山に登り、広大な山頂で閃いた音楽を作品にして発表してきた。2017年の最新アルバム「限りない光の中で」。蝶ヶ岳や常念岳、乗鞍岳、奥飛騨などで作曲した12曲が入った作品だ。もともと音楽家としてシンセサイザーを演奏していたIZANAGIさん。しかし、音楽活動をやめようと思った時期があったという。そんな時、阿蘇山に登り、その大草原に心が奪われた。以来、国内の山々に登るようになり、山頂での作曲活動につながっていった。
山頂音楽とともに、花をテーマにした作曲も手がけ、各地の花を求めて訪問している。2017年のもう一つの最新アルバム「天空の華」は、花の曲を集めた作品だ。作曲地は、愛知県茶臼山高原の「天空の花回廊」や群馬県玉原高原の「たんばらラベンダーパーク」、静岡県袋井市の「可睡ゆりの園」、そして河口湖のハーブ。河口湖畔には7000株ものラベンダーをメインにしたハーブが植えられており、毎年、今の時期は花々が咲き、湖畔に幻想的な光景を演出している。IZANAGIさんは毎年、河口湖を訪れてきたが、今年はかなり様相が異なっているという。7000株ものハーブのうち花が咲いているのが一部なのだ。 「今年は雪が積もらなかった。だから、枯れてしまったのです。悲しいですよ」とIZANAGIさん。町の担当者の話しでは、花が咲かない状況であったため植え替えをしたとのこと。「遅咲きのハーブなので、これから咲いていくのではないかと思う」と町担当者。なぜ、花が咲かない状態になってしまったのかは、わからないという。ただ、IZANAGIさんは、雪が積もらなかったことで水分が十分に補給されなかったためとみているようだ。 ハーブはまだ、所々でしか咲いていないやや寂しい公園内だが、富士山と湖をのぞむ公園を包むようにIZANAGIさんの音楽が流れると、散策していた観光客らも足を止めて、その音色に耳を傾けていた。愛知県から訪れた熟年夫婦は「河口湖にはよく来ますが、去年、ハーブとIZANAGIさんのことを知りました。アルバムを購入して、普段も車の中でよく聴いています」と話していた。