コロナ禍乗り越えた「サーカス」 ポップサーカス前社長・久保田さん 「楽しんで、元気になって」/兵庫・丹波篠山市出身
兵庫県神戸市北区にあるイオンモール神戸北特設会場で開催中の「ポップサーカス神戸公演」。日本を含む世界12カ国のパフォーマーが超人的な演技を披露し、連日、多くの観衆を魅了している。9月末まで同サーカスの社長を務めた久保田悟さん(51)=大阪市=は兵庫県丹波篠山市乾新町の出身。サーカスへの思いや丹波篠山での思い出、今後の展望などを聞きに、退任前、感動と夢の世界が繰り広げられるサーカス団のテントを訪ねた。 空中ブランコにジャグリング、マジシャンによるイリュージョン―。超人の名がふさわしいパフォーマーたちと裏方を含めて約70人の一団は、全国を巡りながら、年間5カ所ほどで公演。世界各国のサーカス団と提携しており、久保田さんもスカウトなどで海外を飛び回っていたそう。 「篠山小、篠山中、篠山鳳鳴高校の出身で、丹波新聞の取材を受けるのは篠山中の時以来。サッカー部の創部メンバーで、県大会に行った時に記事にしてもらいました」―。満面の笑みで迎えてくれた。ちょうど公演開始時間。多くの人がキラキラと輝くテントの中に吸い込まれていく。 もともと父の将利さんが別のサーカス団の運営に携わり、母の洋子さんは綱渡り芸人。幼い頃から常にサーカスが身近にあった。両親が全国各地に公演に行くため、普段は離れて暮らし、夏休みなどは興行地に遊びに行く生活だった。 両親が所属していたサーカス団が廃業し、1996年、将利さんが新たに「ポップサーカス」を結成。当時、東京でホテルマンをしていた久保田さんも退職して運営を手伝い、2014年に社長業を引き継いだ。 「『ありがとう』『良かった』と言ってもらえたり、感動して泣いてくれたりする人もいる。わざわざ見に来て、お金ももらっているのに、そんなことを言ってもらえる仕事ってあまりない」とやりがいを語る。
幼い頃からの日常だったサーカスを当たり前に運営していた2020年初頭、「非日常」が襲いかかった。コロナ禍だ。当時は栃木県宇都宮市で公演中。「インフルエンザと同じで夏になったら収まると思っていたのに、夏も感染者が増えた。緊急事態宣言も出され、『これは無理だ』と」 公演ができないため、外国人パフォーマーに一時帰国してもらい、長期休演に。翌春には再開できるかと期待したが、拡大の一途をたどっていたことから、一部の社員を除き、サーカス団はいったん解散した。 先が見えず、ウイルスという相手の前にはなすすべもない。「倒産を考えたこともあった」という。 そうして気づけば3年。いろんな傷は負ったものの、昨年、何とか再開を果たし、サーカスが日常に戻った。「〝お涙頂戴〟が好きじゃないので、再開した時も平常心で淡々といこうと。公演を見てくださる皆さんに『やっと再開できたよ』とお知らせができたことには、ほっとしました」 神戸北特設会場での公演は16年ぶり。郷里の丹波篠山が近い。離れて34年。懐かしさを感じながら、「全国各地を行くからこそ、篠山って豊かだなあと思う。都会に近い田舎で、有名な特産品もある。これから、もっと面白いまちになってほしい」と思いをはせる。 古代ローマでは、「パンとサーカス」があれば、市民は満足できたといわれる。「食べ物と娯楽が大事ということ。まさにサーカスは、キングオブエンターテインメント。ぜひ丹波の皆さんも黒豆作りに精を出しつつ、サーカスを楽しんで、元気になってほしい」と来場を心待ちにしている。 9月30日付で全株式を株式会社「エスト・ルミエール」(本社・大阪府吹田市)に譲渡し、ポップサーカスは同社の完全子会社になったことに伴い、久保田さんも退任。「これからよりパワーアップするポップサーカスにご期待ください」と、サーカスのさらなる発展を祈っている。 神戸北特設会場での公演は11月4日まで(毎週木曜は休演)。