ホンダと日産が統合交渉へ:世界3位の大グループ、問われる収益性と次世代対応
「クルマのスマホ化」への対応迫られる
EVはこれからAIと融合し、無人運転のロボットカーとなるだろう。こうした車は、SDV(Software Defined Vehicle=ソフトウエアで定義される車)とも呼ばれ、ソフトウエアの開発力が優勝劣敗を左右することになる。SDVとは、平たく言えば、4つのタイヤの上にスマートフォンが載っているようなイメージだ。 そのスマホを作ることを最も得意とする鴻海が、SDVの時代に自動車産業に参入するのは必然の流れと言えるだろう。実際、中国のスマホ大手、小米も北京に最新鋭の工場を建設し、24年1月から高性能なEVの生産を開始している。 ホンダと日産の統合交渉入りも、このクルマの「スマホ化」「ロボット化」が大きく影響している。これからの自動車産業は、ソフトウエアの優劣が商品力に大きく影響するが、EVのOS開発には莫大な投資が必要となる。 例えば、ホンダは24年5月、こうした領域に従来計画から倍増させて30年までに10兆円投資すると発表した。それでも足りるか否かは分からないため、三部社長はかねて「ホンダ1社だけでは立ち向かえない」と語っている。 日産とホンダの経営統合が成立し、これに三菱自動車が加われば3社合わせた年間の研究開発費は約2兆円となり、1兆3000億円のトヨタ自動車を超える。「3社連合」結成に向かう狙いは、資金や技術、アイデアを持ち寄ることで、大変革期にある自動車産業の中で何とか生き残ることが狙いでもある。
しかし、12月23日の統合交渉入りに関する会見の中で、「経営統合そのものを決定したわけではない。自立した2社であることが統合に向けての前提条件となる」と、ホンダの三部社長は強調した。要は、経営統合が成立するか否かの最大のポイントは日産の業績が回復するか否かという点にあるのだ。 さらに、大企業同士の経営統合には企業文化の融合などの面で大きな「障壁」がある。グローバルで重複する生産・販売拠点の最適化も簡単な交渉ではない。業界は違うが、サントリーホールディングスとキリンホールディングス、三菱重工業と日立製作所は経営統合交渉を行っていたが、いずれも最終的に破談した。 ホンダと日産の経営統合が確実に行われる保証はないわけだが、しかし、この統合が成就しなければ、日本の自動車産業は、圧倒的な業績を誇るトヨタグループ「1強」になってしまう可能性がある。そうなると、日本経済を担っている基幹産業の衰退はさらに進むだろう。
【Profile】
井上 久男 経済ジャーナリスト。1964年生まれ。88年九州大学卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年同社を退社し、05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在は自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。